「5年いれば年俸1年分の退職金」
がもらえたかつてのリクルート

 ある程度の規模(従業員1000人など)で平均年齢が若い会社は、組織が成長中であることが多い。

 人手が足りなくなったら、あえて中高年を採用する理由はないから、幹部クラス以外は若い人を採る。企業は、即戦力となる20代後半くらいがいちばんほしい。次にほしいのが、ゼロから刷り込むことができる新卒だ。若い人が多いというだけで活気があるが、成長している組織は、さらに活気が増す。急成長中のベイカレント・コンサルティングをはじめコンサル各社は、業界全体が成長中で、総じて若い。

 社歴の長い老舗のなかでは、リクルートが、かつて“キープヤング”の会社だった。若者の発想力や営業力を大事にして、『ゼクシィ』『ホットペッパー』『スタディサプリ』など誰もが知る新サービスを生み出してきた。新陳代謝を促すため、新卒で6.5年、中途で5年在籍すると年俸1年分を退職金でもらえ、さらに追加で、“当たり年”と社内で呼ばれる41歳、44歳、47歳で1500万円(35歳、38歳では750万円)がもらえたため、それが独立資金となり、人材輩出企業として有名になった。

 しかし、リクルート自身が上場し、大企業になり、IT企業へのモデルチェンジを強めるなかで、2021年4月、ついにこれらの退職支援を全面的に廃止。退職金は一律で最大100万円だけ、と一気にシブくする180度の大転換を行った。「デジタル化を進めるなかで、IT人材とノウハウの流出を恐れた」というのが社員の見立てだ。驚くべきことに、退職金をこれだけカットしながら、給与水準は据え置かれた。総人件費の大幅カットである。

 IT人材の獲得競争が激化するなか、41歳で約2500万円の退職金を出すと、独立する人ばかりではなく、競合他社に転職する行為にインセンティブを与えることになり、ライバル企業に塩を送ることにもなりうるから、理解はできる。だがこれで、江副浩正氏が創業した、イケイケな営業会社だった“若きリクルート”は、組織の新陳代謝に歯止めがかかり、死んだも同然となった。今後は高齢化が進み、保守的な大企業になっていくはずだ。17年前から取材している身としては残念だが、企業の成長ステージが変わった、ということだろう。

(本記事は『「いい会社」はどこにある?──自分だけの「最高の職場」が見つかる9つの視点』の本文を抜粋して、再編集を加えたものです)