【最新の認知症治療を実践する脳のカリスマが30年超の長寿研究から導いた幸せな生き方】
2010年代には大ベストセラー『100歳までボケない101の方法 脳とこころのアンチエイジング』で100歳ブームを巻き起こした医学博士・白澤卓二医師渾身の自信作『長寿脳──120歳まで健康に生きる方法』が完成。
人間の限界寿命とされる120歳まで生きる方法を提示します。
現在の脳のパフォーマンスを上げて、将来寝たきりや認知症にならずに長寿を目指す方法論が満載です。

死ぬときに「いい人生だった」と言いたい願望は贅沢か?Photo: Adobe Stock

人生の最終章、どう幕を引くか

 私は、東京で日本各地からいらっしゃる患者さんの神経再生治療にあたる一方で、群馬県の館林で介護付有料老人ホームを運営しています。

 私が長らく研究課題としてきた抗加齢医学の成果を集結して、「お一人お一人の人生の質を保って過ごしていただきたい」という信念を持って取り組んでいます。

 入居者さんには今年100歳になられる方もいますが、至ってお元気。入居者さんの健康チェックは、毎週欠かしません。手前みそですが「館林のホームに入居すると元気になる」と、評判は上々です。

 健康長寿の方々の住まいを提供できていることに誇りを感じています。

「長寿脳」の話から少し外れますが、私は老人ホームでは体のケアだけをすればいいとは思っていません。

 老人ホームに入居するのは何かしらの介護が必要な方で、多くは人生の終盤に差し掛かっています。人の人生が全10章のストーリーで成り立っているとしたら、すでに第9章までをこなしてきているわけです。

 ところが老人ホームの現状を見渡すと、第9章までの人生の質が非常に高かったのに、最終章である第10章の質が低くなることが多くあります。そんな現状を見たり聞いたりするたびに、「人生がそんな終わり方でいいのか」と考えさせられてきました。人生の最終章を送る場所では、第9章まで維持してきた人生の質を担保して差し上げることが、とても大事だと思うのです。

「人生の質」と「看取り」について考えている

 デスクに向かって研究に没頭していたころには、イメージすることすらなかった「看取り」についても、実際に入居者さんと関わりを持つようになると、考えさせられることがとても多いのです。

 その人がこれまで生きてきた人生の価値を深く考えずに、「年齢なりに弱った体に、経管栄養チューブを入れて体機能を維持する」「口からものが食べられなくなったら、胃ろうで栄養を送り込む」などという行為は、過剰な医療や介護をシステマティックに適用していることになるんじゃないかと考えることがあります。

 看取りにどこまで介入するのかを、真剣に考えています。

 例えば90歳過ぎてからのがん治療の選択というのも、人生の質を基準にして考えるべきだろうと思います。「もう90歳過ぎだから」ということじゃなくて、その人が歩んできた人生を可能な限り理解して、ふさわしい選択肢は何か考えることが必要なのではないかと。

人生の価値を考えるのは医者の仕事

 そのときに、改めて「人生の質とはなんだ?」という問いが出てきます。

 この日本という国に生まれて80年間90年間生きてきた、人生の意義と質とは何なのか。そして人生の意義と質を、どういう方法で評価するのか。

 健康長寿について考えるとき、人生の最終章をいかに過ごすか、どう介護するか、どう看取るのかは、避けて通れない問題です。それが21世紀の内科医に求められている責任なのかなと思います。

本原稿は、白澤卓二著『長寿脳──120歳まで健康に生きる方法』からの抜粋です。この本では、科学的に脳を若返らせ、寿命を延ばすことを目指す方法を紹介しています。(次回へ続く)

監修 お茶の水健康長寿クリニック院長・医学博士・医師 白澤卓二
1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大学院医学研究科博士課程修了。現在、お茶の水健康長寿クリニック院長。