なぜ経営者の言葉が
現場の社員に届かないのか?

八木氏八木明日香(やぎ・あすか)
(株)グッドパッチ デザインストラテジスト。グラフィックデザイナーとして、広告、パッケージ、CIなどを経験したあと、デジタル系デザイナー、アートディレクターとして、Webサイトやアプリデザインへ移行。その後、広告プランナーとしてプロモーション企画などを手がける。現在はデザインストラテジストとして、企業のブランドエクスペリエンス設計や、ビジョンドリブンによる新規事業開発、ワークショップ設計などを担当。

 それは、残念なことに「社員にとって、パーパスやブランドが自分とは関係ない」ことになってしまっているためです。

 特に、絶対にやってはいけないパーパス策定方法は、「企業トップと(コンサルなど外注先の)支援会社の間だけで決めたパーパスを、トップダウンで社内に浸透させようとする」ことです。

 経営者からトップダウンで突然、「これが私たちのパーパスです」と一方的に伝えられても、社員が共感どころか納得できないのは当然です。

 社員自らがパーパスを意識し、体現しようとしなければ、社外からの見え方を統一することなどできません。採用においても、発信されているパーパスに共感したのに、いざ入社してみると「想像と違った」とがっかりし、早期離職につながるケースも多くみられます。不適切な形で行われたパーパス設計は、経営全般に大きな悪影響を与えてしまうのです。

 企業のパーパスが「自社の社会的意義」を言語化したものであるならば、企業の中にいる社員にとってそれは「その会社で働く理由」の一つでもあります。

 自分の想いと会社のパーパスがつながっていなければ、社員の共感を得ることは不可能です。「なぜこのパーパスか」「自分にとってどのような意味があるのか」と社員自身が意識し、実感することがなくては、社員から共感は生まれません。

高木氏髙城栄一朗(たかぎ・えいいちろう)  
(株)グッドパッチ デザインストラテジスト。慶應義塾大学環境情報学部卒業。インキュベーションファームにて新規事業の立ち上げ支援、研修事業に従事。事業部長を経て、グッドパッチにジョイン。デザインストラテジストとして、ブランドエクスピリエンス設計、事業戦略の立案、デザインリサーチ、ワークショップデザインなどの業務を主に担当。

 では、どうすれば社員の共感を得ることのできるパーパスをつくれるのでしょうか? その要は「パーパスを作成するフェーズで、どれだけ多くのメンバーを巻き込めるか」です。

 企業のブランドを構築しようとする時、社長室や経営企画室が主体となって進めることが多いかと思います。しかし数人のチームだけでこのような大事なことを進めてしまうことは、前述したように非常に危険です。

 大切なことは、主体となるメンバーを軸にしつつも、社員へのアンケート、ワークショップなどを実施しながら、全社を巻き込んでいくことです。このようにして、ひとりひとりの社員に「自社のパーパスをつくるプロセスに関わった」「会社の将来に自分の想いも含まれている」という実感を少しずつ醸成していく必要があります。

 誰かに押し付けられた言葉には、必ず反発が生まれます。しかし、自らも作り手として関わった言葉であれば、納得感や使命感が生まれます。その結果、社員がパーパスを体現するようになり、自発的に行動・意思決定をして、同じ未来を目指す、スピード感のある企業へと成長していくのです。