地方経済の維持と強化に大きなインパクト
デジタル円は、わが国の経済全体の効率性の向上につながるだろう。最大のポイントは、全国で現金と同じように決済ができることだ。今まで、日銀の発行する一万円札や千円札で支払っていたものを、デジタル円を使って電子決済をする。現在もSuicaなど交通系やその他電子マネーを使って、支払いをしている人は多いだろう。それらがデジタル円に置き換わると思えばイメージしやすいだろうか。
わが国では急速な人口の減少によって経済は縮小均衡している。資金需要は高まりづらく、地方銀行の経営統合が増えた。コスト削減のために支店の統廃合も増えている。わが国の経済全体で考えると、現金を流通させるコストは増加している。人口減少が深刻な地域では、預貯金の引き出しなどが難しくなるケースもさらに増えるだろう。
現金と同じように偽造の恐れがなく、安心して利用できるデジタル円の実現は、地方経済の維持と強化にはかなり大きなインパクトを与えると考えられる。それに加えて、デジタル円は、現金の輸送、保管(金庫の設置、そのための場所の確保)などのコスト抑制にもつながると考えられる。
デジタル円は、決済にかかる時間の短縮にもつながるだろう。現行の電子マネーを用いて買い物をする場合、その裏では銀行間の口座振替決済が発生している。電子マネーを用いて代金を支払うと同時に、決済が完了しているわけではない。また、クレジットカードを使って買い物をした場合は、利用金額が所定の口座から引き落とされるのは翌月であることが多い。
対して、デジタル円は法定通貨をデジタル化したものなので、支払いと同時に決済は完了する。事業者は資金をより短時間で回収することができる。それは、企業の事業運営に大きなプラスの効果を与えると期待される。
具体例として、カンボジアでの取り組みがある。カンボジア中央銀行は、「バコン」と呼ばれるCBDCの利用を始めている。それによって、金融包摂が加速し、中小企業の成長は加速した。CBDCの実現によって経済運営の効率性が向上したのだ。そうした考えに基づき、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など主要先進国の中央銀行がCBDCの実証研究を行っている。