デジタル円が日本に「創造的破壊」をもたらす

 中長期的に見ると、デジタル円は、わが国経済に創造的破壊をもたらす可能性がある。世界経済のデジタル化は加速し、ネット業界は「ウェブ2.0」から「ウェブ3.0」に向かいつつある。必要に応じてネットに接続するのではなく、リアルとバーチャルな世界が同時に進むようになるだろう。

 具体的な変化として、企業は分散型元帳技術の「ブロックチェーン」を利用して業務を運営するようになると予想される。特定の条件が満たされた場合に、システムが自律的に取引契約や決済を行うケースも増えるだろう。逆の見方をすれば、加速する世界経済のデジタル化に各国が対応して成長を目指すために、CBDC利用は避けて通れない。

 ブロックチェーンの利用増加によって、わたしたちの生き方も大きく変化するはずだ。例えば紙ベースで契約が交わされ、支払いが行われてきた保険業界では、システムが業務運営を担い、事業運営に必要な人員数が減るだろう。

 ルーティン業務から解放された人々はリカレント教育を受講することによって、成長期待の高い産業や企業での就業を目指しやすくなることが期待される。一朝一夕にそうした変化が現実のものになるとは考えづらいが、デジタル円はわが国の経済運営の常識を大きく変える可能性を持つ。

 他にも、非金融分野の企業が銀行分野により多く参入し、競争原理によってより効率的な生産要素(ヒト・モノ・カネ)の再配分が加速する可能性もある。

 デジタル円は、さまざまな意味で経済全体のイノベーションを促進することが想定される。とりわけ日本人は、現状がずっと続いていくと考えがちだが、社会は常に変化していくものだ。デジタル円も、社会の大きな変化の一コマと考えられる。私たちも変化に対応する準備をしておかないと、社会の変化に取り残されてしまうだろう。