「企業変革の7つの必須要件」とは

池内 それぞれの概要を教えていただけますか。

デジタル化は、変革のための手段のひとつに過ぎないポール・レインワンド(Paul Leinwand) PwCの戦略コンサルティンググループであるStrategy&で、ケイパビリティに基づく戦略と成長を専門とするアドバイザー、およびソートリーダーであり、過去20年で多くの業界の企業幹部チームを導いてきた。また、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の戦略論の非常勤教授も務める。ハーバード・ビジネス・レビュー誌で定期的に執筆するほか、strategy+business誌、Forbes.com、その他出版物にも寄稿している。

レインワンド 7つの要件は、大きく3つのテーマに分かれています。1つ目が「社会や市場とどのように向き合うか」という対外的なこと。2つ目が「自社をどのように運営するか」という対内的なこと。そして3つ目が「どのように組織をリードするか」という経営リーダー自身のリーダーシップのあり方です。

 対外的なテーマの中には3つの必須要件があり、第1の要件が世界における自社の立ち位置を再構想することです。自社の現在地にとどまり、いまある製品やサービスを提供するだけでは、将来的には市場での地位が大幅に低下していく可能性があります。経営環境が大きく変化し続ける中、より広範な顧客にアプローチをしていくためにも、自社のケイパビリティ(強み)は何かを再定義し、自分たちの将来像を自分たちで作り出していく必要があります。

 第2の要件は、多数の企業からなる生態系を意味する「エコシステム」を作り上げることです。取り組む課題や提供すべき価値が大きくなるほど、自社単独ではソリューションを生み出すことが困難になります。だからこそ、お互いに協力し合えるパートナーが必要になるのです。

 第3の要件は、顧客に関する専有的な知見に関することです。変化に対応していくためには、市場や顧客を独自に調査・研究して自社しか持ちえない知見(インサイト)を獲得し、それを社内で共有・活用することで、提供する価値を継続的に向上させていかなければなりません。

池内 社会や世界との向き合い方を考えていくうえで、以上の3つの要件があるわけですね。次に対内的なことに関する要件を教えてください。

レインワンド まず、組織やチーム作りをするにあたっては、「成果指向の組織」をめざします。これが第4の要件です。企業が提供しなければならないあらゆるソリューションは、以前よりも複雑化しており、部門や部署を基本とした旧来の組織モデルは役に立ちません。顧客にとって有意義な成果を生み出していくには、多様なスキルを持つメンバーを成果指向のチームに結集させ、それらのチームを組織モデルの中心にしていく必要があるのです。

 第5の要件は、リーダーシップチームに関することです。リーダーシップチームは、現在の成果を上げるだけではなく、将来のために変革を進めていくという困難なチャレンジに取り組むことになります。成果と変革を同時に達成するには、リーダーシップチームの機能や構造を再考しなければなりません。答えがはっきりしない世界では、多様な見解が必然的に必要になります。リーダーシップチームに必要なのは、リーダー同士の仲を深めたり意見を一致させたりすることではなく、リーダーそれぞれが果たすべき責任を自覚し、それぞれの多様な実績を組織に還元していくことです。つまり、ダイバーシティの観点もこの要件には欠かせません。

 第6の要件は、従業員との社会的契約に関することです。自社のケイパビリティを構築するには、リーダーだけではなく、従業員にもその方向に進んでいくように動機づけをする必要があります。12社の事例からは、本当の意味での従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上の方法や、日々の仕事における目的の提示の仕方などを学ぶことができます。以上が、自社の運営に関わる3つの要件です。

 そして第7の必須要件が、自身のリーダーシップについて、つまり「どのように組織をリードしていくか」です。本書では、リーダーが企業変革を推進していくために必要な「リーダーシップにまつわる6つのパラドックス」という考え方を紹介しています。

池内 いまお話しいただいた7つの要件のフレームワークは、企業全体だけではなく、それぞれの部門や個々のプロジェクトでも活用することができるのではないでしょうか?

レインワンド それは良い視点ですね。おっしゃる通り、個々の部門やビジネスユニットでもこの7つの必須要件に基づいて、自分たちの立ち位置や顧客との関係性を見直し、組織モデルを再構築することで、変革を進めていくことも可能ですね。

池内 本書で取り上げている12社はそれぞれ、どのようなきっかけで変革への舵を切ったのでしょうか? また、何か共通点があれば、教えてください。