下請け体質を脱却する「新たな強み」を創出

 各社の事業開発を手掛けるデザイナーと、プロジェクト全体を推進するクリエイティブチームの連携は、あらゆるフェーズでさまざまな効果をもたらした。

 まず、クリエイティブチームの主導により、企業とデザイナーとの最適な出会いをかなえる仕組みを構築した。企業がデザイナーと協業したいと思っても、要件に合ったスキルや経験を持つデザイナーを的確に選ぶのは容易なことではない。そこで、あらかじめプロジェクトのディレクターが丁寧に企業にヒアリングし、各社の特性や意向を理解した上で経験値の高いデザイナーを招聘し、契約に関するサポートを行ってきた。

 それぞれのデザインを推進するフェーズでは、デザイナーが企業の背景を共有し、共に方向性を検討する時間を十分に取っている。製品のデザインだけでなく、「企業の真の成長」を重視しているためである。「作れば売れる時代」ではない以上、新製品を生み出すだけではビジネスにならない。長期的な利益をもたらす事業を創出するためには、「事業全体のデザイン」が必須となる(図2)。これは、ビジネスのバリューチェーンを包括的にデザインできる経験値の高いデザイナーの参画がなければかなわない。

「モノづくりのまち・東大阪」は生き残れるか、デザイナー集団のチャレンジとは図2:プロジェクトの推進プロセス(提供:HIGASHIOSAKA FACTORies)
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 そして、このプロジェクト全体のプロセスや成果は、クリエイティブチームが積極的にメディア発信をしてきたほか、展示会への出展も推進した。細かい内容を詳述する紙幅はないが、こうした仕組みを構築できたことは、間違いなくこのプロジェクトの要点となっている。

「下請けからの脱却」を目指すとしても、これまでBtoBの請負業務を主体としてきた企業にとって、BtoC製品の開発が常に最適解とは限らない。業種や業態、競合の動向、投資可能額、既存顧客との関係性、技術や人材などのリソースといった条件によって取るべき施策は異なる。形だけの新規事業を拙速に生み出すのではなく、長期的な成果を重視した結果、第1期で得られたアウトプットの方向性には、以下のようなバリエーションが生まれている。

▶自社製品ブランドとして新たな製品を開発した
▶既存の技術と販路を生かせる新製品を開発した
▶展示会などで独自技術をアピールし、新規顧客を獲得した
▶デザイナーのネットワークを活用して、新領域の顧客を獲得した

 いずれも、顧客とのタッチポイントでデザインが重要な役割を果たしている。こうして生まれた新たな強みは、既存事業とのシナジーを生み、さらなる成長につながっていくだろう。