傷病手当金と出産手当金は
健康保険料を納めている人だけの「特権」

 健康保険か国民健康保険かによって給付には差があるが、次の3つは、全ての公的な医療保険に備わっており、全ての人が利用できる。

●療養の給付
 病気やケガをして、病院や診療所を受診したときに、手術や入院、投薬など、治療のために必要な医療を健康保険が現物給付してくれる制度。

●高額療養費
 1カ月に患者が支払う一部負担金に上限を設けることで、医療費が高額になった場合の患者の負担を抑える制度。たとえば、70歳未満で一般的な所得の人の高額療養費の限度額は、【8万100円+(医療費-26万7000円)×1%】。1カ月の医療費が100万円だった場合、最終的に自己負担するのは8万7530円でよい。

●出産育児一時金
 健康保険の加入者、または扶養家族が、妊娠4カ月(85日)以上で出産した場合は、子ども1人につき42万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は40.8万円)の現金給付が受けられる。

 この他、海外で現地の医療機関での診療にかかった医療費の一部払い戻しを受けられる「海外療養費」、入院時の食費の一部を負担してくれる「入院時食事療養費」、病気やケガで移動が困難な患者が、必要があり移送された費用を負担する「移送費」、被保険者が死亡した場合の「埋葬料」(国保は葬祭費)なども、全ての制度に備わっている給付だ。

 ただし、社会保険に加入している労働者のための健康保険にしか備わっていない給付もある。それが、休業中の所得補償を目的とした「傷病手当金」と「出産手当金」だ。

■傷病手当金
 健康保険に加入し、保険料を納めている人が、病気やケガで仕事を休んで、給与をもらえなかったり、減額されたりしたときの給付。1日当たりの給付額は、日給の3分2で、勤務先から給与が支払われていても、この金額に満たない場合は差額が支給される。支給日数は通算1年6カ月分。3日連続で休んだ後の4日目から支給を受けられる。

■出産手当金
 健康保険に加入し、保険料を納めている女性が、妊娠・出産のために仕事を休んだときの給付。1日当たりの給付額は、傷病手当金と同じで、日給の3分の2。産前42日間(多胎児は98日間)と、産後56日間の給付が受けられる。

 この2つの給付は、給与が生活の糧となっている労働者(給与所得者)に配慮してつくられた制度だ。休業中の所得を補償することで、療養に専念できるようにして、貧困に陥ることを避けることが目的となっている。

 いずれも、給与の全額が補償されるわけではないが、当面、必要なお金は確保できるので、安心して療養に専念できるのではないだろうか。

 さらにこれらの給付は、健康保険に加入している人のなかでも、自ら保険料を納めている人だけを対象としたものだ。夫の扶養家族として健康保険に加入しているパート主婦は、たとえ病気で仕事を休んでも傷病手当金はもらえない。つまり、保険料を支払っている人だけの特権なのだ。