その仕掛けとは、イノベーション経営です。実は、ネットフリックスは「経営」に工夫を施すことで、製作陣の能力を爆発的に上げ、視聴者の満足度を一気に引き上げることに成功しています。一つずつ解説してみたいと思います。

イノベーション(1)
能力密度を重視する経営

 ネットフリックスの創業期、まだレンタルDVDを主力ビジネスとしていた当時にネットフリックスが最初のリストラを行わなければならなくなったときの話です。120人の社員を80人に減らしたときにCEOのリード・ヘイスティングスが気づいたことは、社員を減らしたことで組織の能力が格段に上がったことです。

「凡庸な社員がいると組織の能力が下がる」

 その時の経験からヘイスティングスは、「能力密度」という考え方を重視するようになります。そこからネットフリックスは、「次に採用する人はそれまでよりも有能な人を探す」「残ってもらいたいかどうかを考えて迷うような人材はそこで辞めてもらう」といった、他の会社では実行しないような極端な人材政策を採用するようになります。

 一見、クレイジーな人事政策に見えるのですが、このネットフリックス独特の人材政策がオリジナルコンテンツにかじを切る際に、既存のコンテンツ制作集団と比較した競争優位を生むイノベーションとなりました。

 実は、ドラマ制作のようなクリエーティブな職種では“ロックスターの原則”と呼ばれる人材法則が知られています。ロックスターの法則はもともとIT業界のプログラマーについて発見された法則で、「最も優秀なプログラマーは平均的なプログラマーの20倍能力が高い」というものです。

 映像コンテンツ制作においても、このロックスターの原則が当てはまります。ネットフリックスでは独自ドラマコンテンツを制作する際に、「最高の人材に個人に対する最高報酬を払う」というルールを適用していった結果、業界最高水準の少数精鋭チームが誕生しました。

 その結果、ネットフリックスの制作陣の能力は短期間にハリウッドの映画スタジオを超えるようになります。

 ネットフリックスのオリジナルドラマ初期最大のヒット番組である「ストレンジャー・シングス」の企画が始まったのが、2015年でした。その初期にはネットフリックスにはまだスタジオがなかったのです。

 しかし、その7年後の2022年にはネットフリックスのオリジナル作品は第94回アカデミー賞で10作品、27部門のノミネートを獲得し、映画業界でも最大勢力になるまでの成長を見せました。

 わずかな期間で業界トップの人材を擁するようになった背景には、このようにクレイジーかつイノベーティブな人材採用ルールが存在しているのです。