国民世論の変化により
前大統領が追及される可能性も

 尹錫悦政権は、文在寅前大統領への捜査の拡大には慎重な姿勢である。これは、民主党代表の李在明(イ・ジェミョン)氏本人への捜査が迫っているように思われるのとは対照的である。

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 李在明氏の疑惑に対して民主党はこれまで、これを庇う姿勢を取り続けてきた。しかし、捜査が李在明氏の最側近2人の逮捕に発展し疑惑が深まる中で、民主党内に「司法リスクで党全体が埋没してはいけない」という雰囲気が出ている。非李在明系議員の間では「もう李代表の『司法リスク』への対応に関連して党のかじを切るべきだ」という声が徐々に広がっている。

 しかし、文在寅前大統領の疑惑について捜査が及ぶ場合、民主党の対応は全く異なる。民主党の主流派はいかなる場合にも文在寅前大統領を守ることに徹するであろうし、そのためには、民主党による尹錫悦大統領への弾劾も検討される可能性がある。尹錫悦政権としては文在寅前大統領への捜査の波及には慎重にならざるを得ないだろう。

 そこでカギとなるのが尹錫悦政権の支持率ということであろう。これまでの2つの例で見てきた通り、文在寅前大統領の政策に対峙(たいじ)する尹錫悦大統領の支持率は上昇傾向にある。それは文在寅前大統領の理念に基づく左派的な政策志向への反発、尹錫悦大統領の現実的な対応の評価が結果として出ているのであろう。

 こうした動きが強まることで、韓国の革新的体質が変化していくことが期待される。それは同時に、文在寅前大統領に対する捜査の手が及ぶ可能性を高めることにもつながるであろう。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)