約70年の歴史を持つ核融合研究は、その価値が認識されるようになり、産官学一体の「国家プロジェクト」に変貌しつつある。実はその中心にいるのは、大手上場企業ではなく、京都大学発のベンチャーだ。特集『地上の太陽 核融合新時代』の#3では、核融合スタートアップの社長と業界団体の会長という「二つの顔」を持つ小西哲之氏に、日本が核融合で世界をリードするための秘策を語ってもらった。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
核融合研究者がスタートアップを立ち上げ
ここまでの資金調達額は「100億円超」
――核融合の研究者であった小西さんが、起業しようと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。
2010年くらいから、国が政策を決定して予算を付けてくれるのを待っているだけではフュージョン(核融合)を実現できないと思っていました。国の予算も、公的機関の人員も限りがあります。お金と人を一気に集めて迅速にプロジェクトを進めるためには会社をつくらないといけないと思ったんです。
――核融合にはトカマクやレーザー、ヘリカルなどさまざまな方式がありますが、どれかに絞った事業運営をしているのでしょうか。
京都フュージョニアリングが売っているのは技術サービスであって、プロダクトを作って売るだけのビジネスではありません。トカマク、レーザー、ヘリカルといった特定の方式に肩入れしているわけではなく、どの形式にも共通して必要になるであろう技術に取り組んでいます。どの方式にもポテンシャルがあるので、どれか一つが勝ち残るという見方は正しくないと思っています。
――京都フュージョニアリングの設立から5年になります。ここまでの手応えと課題を教えてください。
当社に100億円単位の資金を預けていただくことができました。そのおかげで核融合技術の実証が進み、社員数も100人を超え、それなりのビジネスを展開できるようになっています。
スタートアップですから、どこかの段階でIPO(新規株式公開)を検討することになります。株式を公開してしまうと、大規模な資金を市場から集めることができる一方で、現在の意思決定手法が株主に納得してもらえる保証もない。ですから、まずは核融合エネルギーに何らかの形で技術的なめどを付けるというのが、当面の目標になります。
当社がここまで順調に成長してきたのは、皆さまのサポートや社員の頑張り、運もあれば、日本の「地の利」もあります。
次ページでは、日本が持つ核融合の「地の利」の正体を明かす。さらに、業界団体であるフュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)会長としての立場から、日本が核融合で世界をリードするための秘策を語り尽くす。日本の核融合産業は、自動車に匹敵するほどの一大産業に育つポテンシャルを秘めているが、国や企業がうかうかしていると、技術や標準作りで海外勢にやり込められて、日本が草刈り場になりかねないという。核融合技術で先行する日本が、かつての半導体のように「試合に勝って勝負に負ける」ことのないようにするには、どうすればよいのだろうか。