なぜこのようなことになったのかといえば、トランプ前政権下で、最高裁判事の構成が9名中リベラル派3名に対し、保守派が6名まで増えたことによる。

 最高裁判事は終身制で、一般的に数十年にわたり重責を担う。死亡や引退で欠員が出た場合のみ、大統領が候補を指名し、連邦議会上院が承認する仕組みだが、トランプ前大統領が保守派を相次いで3人も指名するという異例の状況で一気に保守派が優勢となった。

 最高裁の判断は、中絶のほかにも同性婚、医療保険制度、銃規制、入国制限など生活に深く関わってくるため、国民の関心は高い。そこで大統領選挙の段階から、候補者はこうした重要テーマについての姿勢を明確にし、国民に支持を呼びかけるのだ。

 バイデン大統領はカトリックだが、個人的な信仰は別として、国民に選ばれた大統領として中絶の権利を擁護する立場を取り続けている。この最高裁の判断にも異を唱え、カトリック教団からは事実上の破門状を突き付けられる事態にもなった。

 米国はプロテスタントの一派であるピューリタン(清教徒)が中心となって建てた国だけに、プロテスタントが多数派を占めている。第46代バイデン大統領は史上二人目のカトリックの大統領で、ひとり目は米国民から絶大な人気を誇ったケネディ大統領だ。

 ちなみに世論調査では、中絶容認派が常に過半数を占めている。このことも覚えておきたい。

米大統領選のカギとなる
「福音派バイブルベルト」とは

 2016年の米国大統領選挙にトランプが勝利したとき、「なぜこんなことが起こるのか」と驚いた人は多いだろう。選挙期間中、トランプはラテン系の人々やイスラム教徒といったマイノリティ層に対して攻撃的な態度をとったり、常軌を逸した言動を繰り返したりしていたからだ。

 このトランプの大統領就任という絵空事に見えたシナリオを現実にしたのが、共和党最大の支持基盤といわれる福音派(エヴァンジェリカル)の存在だ。プロテスタントのなかでも保守的な非主流派で、キリスト教右派と呼ばれる勢力を構成してその価値観を広めてきた。