リーダーになる人は
「伝える」トレーニングが必要

村瀬先生村瀬俊朗(むらせ・としお)
早稲田大学商学部准教授。1997年に高校卒業後、渡米。2011年、University of Central Floridaで博士号取得(産業組織心理学)。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)を務めた後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭(きょうべん)を執る。17年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。

村瀬 個人の多様性が増えるという点で、「多様性により創造性も高まる」というデータがあります。だから、坪井さんの視点はすごく重要だと思いました。

坪井 そうですね。個人の中の内なる多様性と、チームとしての多様性。この両面も必要でしょう。

小野真吾(以下、小野) 今のお話を聞いていて、この議論には「二つの側面がある」と感じました。

 一つは、社命で動いたとしても、自分で動いたとしても、そこでの「気付きは必ずある」だろうということです。その内省の機会を自分だけのものにせず、もう少し透明化して公表するといったパターンを示していく。それが組織として重要です。

 大きく異動したときに「こんな経験があった」「こんな広がり方があった」といったことは、実は聞こえてくるようであまり聞こえてこない。そういうライブラリーのようなものがアーカイブ的にあればいいなと思います。これは組織側でできることの一つでしょう。

 もう一つは、従業員目線で考えたとき、性格、特性、動機などから、仕事の幅を広げたい人、それに向いている人とそうではない人の「パーソナリティー」があるだろうということです。

 パーソナリティーについては、我々もアセスメントなどを使って測り、本人にフィードバックして将来を考えてもらうようにしています。どの方向に行きたいのか、そういう選択肢は個人でも生まれてきますから、そのパーソナリティーの話と会社側のアーカイブ的なキャリアの方向性を合わせて、そこをうまくマッチングする対話プロセスを上手にデザインする。その両立ができるのではないかと思って、これからデザインしようと考えています。

坪井 とても参考になります。

村瀬 社会が複雑になってくると、一つの専門性を深く極めるために、高度な技術と知識がとても必要になってきます。

 また、日本はリーダーになっても「こうあるべきだ」と伝えるのが得意ではないという話もあり、そうすると「こういうものを作りたい」と発言して、みんなを突き動かすということを、今のリーダーになる人はしていないのかと思うこともあります。

 高度な専門性をどう生かすのかと同時に、そういう人たちを使ってリーダーシップとしてビジョンを描き、みんなを説得していく。それが苦手という人が多いという話を聞くにつれ、それをどう統合して考えればいいのか悩んでいます。

小野さん

小野 明確な答えがあるわけではなく、みんな同じように悩んでいるから難しいところではあります。

 少なくとも、日本人が苦手というか、そういう場が今まであまりなかったとか、そういう場を設ける発想がなかった。だから、ある種の「メンタルバリア」というか、そういう機会すら与えないということはあったかもしれません。

 例えば、買収した欧米系企業のマネジメントチームとして、日本から派遣された相対的に若い世代がエグゼクティブチームに入って経験すると、「やはり伝えることが必要だ」という認識を持ちます。

 諦めるとそこで止まってしまうので。ポテンシャルのある人材を発掘し、よりそういう場を与え、トレーニングしてもらうことはすごく大事だと思います。