7~12月は税務調査のメインシーズン
マイナンバー普及はどう影響する?

 税務署の事業年度開始は7月なので、7~12月は「ナナジュウニ」と呼ばれ、税務調査が開始されるメインシーズンといわれる。実際には、人事異動による業務引き継ぎなどが落ち着いた9~12月が多く、今がまさに最盛期だ。相続税の税務調査は、申告書を提出してから1~2年後の8~11月が多い。

 税務調査の方法には、大きく分けて「実地調査」と「簡易な接触」がある。

●実地調査:申告漏れ等が見込まれる個人を対象として、自宅などへ通常2人の税務調査官が訪れ、1~2日間ほどかけて行う税務調査。原則として、電話などで事前通知を行うことになっている。税理士に依頼して申告を行った場合は、税理士にも直接電話で連絡が入る。

●簡易な接触:原則、納税者宅等を訪れることなく、文書、電話、あるいは税務署への来署依頼による面接を行い、申告内容を是正する税務調査。

 コロナ禍で「簡易な接触」が増えている。しかし、国税庁「令和3事務年度の相続税務調査」によると、実地調査件数(6317件)・追徴税額合計(560億円)はともに増加(対前事務年度比123.7%、116.2%)。1件当たりの申告漏れ課税価格は3530万円(対前事務年度比101.0%)と、過去10年間で最高の成果を上げている。

 また、法人を対象に、22年10月から「リモート税務調査」が試行開始している。今後、ウィズコロナ時代が長引けば、個人にもリモート調査を行う可能性もある。実地調査では金庫の中身やタンス預金なども細かく調べられるが、では、リモート調査なら隠し金があってもバレないだろうと安心はできない。

 18年から金融機関に対し、口座開設者のマイナンバーと預貯金口座をひも付けして管理することが義務化された。しかし、個人に対しては、金融機関へのマイナンバー登録は、現状、「任意」である。個人情報保護やセキュリティーの観点から、預貯金者のマイナンバー登録義務化は検討中・準備中の状況だ。

 とはいえ、金融機関で口座開設するには、必ずマイナンバーカードなどの顔写真付き本人確認書類の提示が求められる。預貯金者には義務ではないので、理屈上、拒否は可能だ。しかしながら、金融機関には義務化されているので、実際には本人確認書類の提出を拒みつつ口座開設するのは難しいだろう。

 なぜなら、拒否すれば、マネーロンダリングやテロ資金目的、なりすましなどの犯罪を疑われる可能性があるからだ。「犯罪による収益の移転防止に関する法律(通称:犯罪収益移転防止法)」で、取引の際に本人特定事項についての虚偽や隠蔽(いんぺい)を禁止しており、違反に対しては以下のような罰則も設けられている。

●本人特定事項を隠蔽する目的で、それを偽った場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科される。

●業として本人特定事項の虚偽・隠蔽を行った場合、3年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科される。

 また、金融機関などの特定事業者は、本人特定事項の提示等を拒否された場合、それに応ずるまでの間、取引等の履行を拒むことができると定められている。

『税務署はSNSも見ている!もうけ話や贅沢自慢で「税務調査の標的」にも』のコラムにも書いたが、NTTデータによる「ピピットリンク」は、19年からすでに始動している。行政機関と金融機関をオンラインで結ぶ、預貯金等照会業務の電子化サービスだ。「実地調査」にせよ、「簡易な接触」にせよ、また「リモート調査」にせよ、税務調査官は対象者の入出金などについて情報を把握してから、税務調査に臨んでいると思ったほうがいい。