天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』。鎌田浩毅氏(京都大学教授)「数学“零点”を取った私のトラウマを払拭してくれた」(「プレジデント2020/9/4号」)、「人気の数学塾塾長が数学の奥深さと美しさ、社会への影響力などを数学愛たっぷりにつづる。読みやすく編集され、数学の扉が開くきっかけになるかもしれない」(朝日新聞2020/7/25掲載)、佐藤優氏「永野裕之著『とてつもない数学』は、粉飾決算を見抜く力を付ける上でも有効だ」(「週刊ダイヤモンド2020/7/18号」)、教育系YouTuberヨビノリたくみ氏「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されている。新年が明けて、今年は2023年。「2023」という数字に隠された幸運な秘密について、著者が特別寄稿した。

「2023」は幸運数! 21世紀にたった12回…幸運な数字の秘密とは?Photo: Adobe Stock

正月らしいパズル

 お正月らしい数学パズルを紹介しよう。

 可能であれば碁石を黒4個、白4個の計8個用意してほしい(なければ、黒いトランプ4枚と赤いトランプ4枚でも良いが、碁石の方がお正月の風情があるかも)。

 それらを円形に白黒交互に並べたら、「1番」の碁石の場所を決めておく。次にサイコロを降る。

 仮にサイコロの目が「3」だとすると、1番の碁石から数えて3つ目の碁石を抜く。

 さらに抜いた碁石の隣から数えて3つ目の碁石も抜く。以下同じように、環状の碁石をぐるぐる回りながら3つ目ごとに次々に抜いていく。

 そうすると最後に碁石が1つだけ残る。この碁石の色を当てるのがこのゲームの目的だ。

 ちなみに「1番」の碁石の色が黒で、サイコロの出た目が「3」なら、最後に残る碁石は、最初に「1番」の隣の隣に置いた「黒」である(良かったら確かめてみてほしい)。

 これは、古くから日本に伝わるゲームで「継子(ままこ)立て」と呼ばれるものだ。

 ただし、上の設定は私なりに少々アレンジしてある。普通は、碁石は計30個用意し、何番目ごとに抜き出すのかはサイコロで決めるのではなく「10」にすることが多い。

ユダヤ戦記の興味深いエピソード

 ヨーロッパにも「継子立て」とよく似た数学パズルの古典がある。『ユダヤ戦記』に記された実話を元に370年頃に作られたというその問題を紹介しよう。

 紀元66年、ローマ帝国の支配下にあったユダヤ人は、反旗を翻して独立戦争を起こした。

 ユダヤ側の総司令官ヨセフスは40人の兵士とともにヨタパヤという町でローマ軍に包囲されてしまう。しばらくは洞窟に身を隠していたが、いよいよ食料が尽きてしまった。

 それでも誇り高きユダヤ人たちは降伏の道を選ばなかった。集団自決を望んだのだ。

 しかし…ヨセフスとその友人の2人は内心、命は助かりたいと思っていた。そこでヨセフスは同志たちに次のように言った。

ヨセフスの提案

「自決すると言っても全員がやり遂げられるとは限らない。

 重傷を負いつつも生き延びてしまい敵の捕虜になるのは悲劇だ。

 だったら、全員が円形に並び、ある人から数えて3番目の人ごとに同志に殺してもらうというのはどうだろうか?

 そうすれば、自決は最後の1人だけですむ」と。

 ヨセフスのこの提案は受け入れられた。

 41人は車座に座り、友人は数えはじめの人から16番目の位置に、ヨセフスは31番目の位置に座った。結果、この2人だけが命をとりとめた。

 この問題は「ヨセフスの問題」と呼ばれ、ヨーロッパでは広く知られている。

幸運数とは?

 素数の分布についてのイメージを与えてくれる「ウラムの螺旋」でも知られるポーランドの数学者スタニスワフ・ウラム(1909~1984)は、1956年に「ヨセフスの問題」に着想を得て「幸運数」という名の数を定義した。

 幸運数は、1以上の整数の列から「継子立て」や「ヨセフスの問題」のように次々に数を抜いていったときに残る数だ。ただし抜き方のルールは少々複雑である。

 1~20の数の範囲で実演してみよう。
 最初は2番目ごとに(要は偶数を)抜いていくと次の数が残る。
  1、3、5、7、9、11、13、15、17、19

 残った数の2番目の「3」を幸運数とする。この「3」にちなんで次は上の数列の3番目ごとに抜いていく。
  1、3、7、9、13、15、19

 今度は残った数の3番目の「7」を幸運数とする。同様に上の数列の7番目ごとに抜いていく。
  1、3、7、9、13、15

 残った数の4番目の「9」も幸運数だ。

 もっと長い数列であれば、次は9番目ごとに抜いていく…永遠に続く1以上の整数の列に対して、以上のルーチンを何度繰り返しても残る数が「幸運数」である。

21世紀にたった12回

 そして!

 今年の西暦年「2023」は279番目の幸運数にあたる。

 西暦年が幸運数になるのは、21世紀中には12回あって、今年はその3回目であり、次に幸運数になるのは2031年だ。

 正直もの凄く珍しいわけではないが、一生にあと何度味わえるかを考えると貴重な感じはする。

 いずれにしても「幸運な数」にちなむ今年が、皆様にとって本当に幸運な年でありますように。

(本原稿は『とてつもない数学』の著者永野裕之氏による書き下ろしです。)