意外と知られていない
事前確定届出給与
第三に事前確定届出給与です。
これは課税の繰り延べではなく、節税保険の出口となる手法です。事前確定届出給与とは「事前に自社の株主総会で金額を確定し税務署に届け出る役員の賞与的給与」です。社長や役員の賞与は一般社員と異なり経費化できないので、支払わないことが一般的ですが、事前に税務署に届け出れば、役員の賞与も経費で落とせるのです。メリットは、社員と同様、自分たち社長や役員にも賞与を支払えること。
デメリットは、社長個人が受け取った賞与は「所得税、住民税などの対象になる」ので、年収がプロ野球選手のような高額所得の社長は税金も多額になり、選択肢にはなりません。
一方で会社の役員に「社長の妻や子供や母親がいるケース」でかつ「年間の役員報酬が1000万円前後の方」のような会社の場合、事前確定届出給与で例えば「取締役の妻に1000万円程度の役員報酬を払っている」ケースでは、課税される金額も社長に比べ低いものになりますので効果的です。
事前確定届出給与を決議するタイミングは「期末の決算報告時の株主総会」が一般的ですので、事前確定届出給与を支給したい事業年度の前の期における株主総会決議を経る必要があります。
例えば12月末決算の会社の場合、同年2月の定時株主総会でこの議案を通しておけば、その期中は任意のタイミング(これも株主総会で決議)で支給できます。ただし、社長の思い付きですぐに事前確定届出給与が使えるわけではないですし、日付と金額が少しでもずれると経費化できない厳格なルールがあるのでご注意ください。
国税庁のHPにも掲載されているにもかかわらず、意外に事前確定届出給与は企業経営者に知られていません。わざわざ事前確定届出給与にするくらいなら、新年度から社長の毎月の役員報酬を上げたほうが手間が少ないので、社長に案内しない税理士も多いようですが、検討すべきだと思います。
そして、第四は「地主が法人化しているケース」などで使える出口戦略です。具体的には大規模修繕費用と節税保険の解約返戻金を相殺する手法です。
地主は表向き農家ですが、実際はマンションやアパートなどの収益不動産を複数棟保有しているケースが多く、保有物件の外壁の塗り替えなどの大規模修繕を十数年に1度繰り返す必要があります。その費用は不動産の規模にもよって異なりますが、最低数百万円はかかります。規模が大きければ千万や億単位の費用がかかります。
これらの大規模修繕のための資金として保険の解約返戻金を充当し、解約返戻金の利益と大規模修繕の損金を相殺させるのです。
地主の多くは「大規模修繕ってお金がかかるから、10年後に備えて法人で農協の定期積立貯金を毎月一定額しているんだよね」とよくおっしゃいます。この定期積立貯金は経費で落ちませんが、節税保険であれば全額損金(2019年7月以降に新規で加入された方は4割損金の法人保険が多い)で落ちます。したがって、計画的な修繕に充てられる非常に効果的な手法です。
ただし、大規模修繕と一言で言っても、原状回復に関しては損金となりますが、設備のグレードアップなどの資本的支出(エレベーターの交換など)に関しては減価償却となりますので、ご注意ください。
このように、法人保険の出口戦略は特別なことをしなくても「普通に」いくつも存在します。しかしあらかじめ準備をせず、土壇場になって「来月決算だし、法人保険ピークだし、解約しなきゃ」というような場合では打つ手は限られてきてしまいます。本業のみならず、タックスプランニングによる「守り」の強化も、経営者にとって大事なことではないでしょうか。