南蔵院、佛願寺の大仏はなぜベトナム人に人気?
佛願寺も、南蔵院と並んで、東南アジア系の割合がかなり高い。日本の大仏は阿弥陀如来などが多いのだが、涅槃仏は釈迦が寝た姿がモデルになっているので、より自分たちが普段信仰する上座部仏教(小乗仏教)に近い感覚なのだろう。涅槃仏は、東南アジア、特にタイでよく知られる。ベトナムの仏教徒にとっては特に親近感があり、インスタなどのSNSでもより「映える」のであろう。涅槃像の写真は、どれもインスタやFacebookなどで活発にシェアされている。
南蔵院には大仏以外にも大不動明王や七福神トンネルなどの見所があり、テーマパーク的ですらある。また、佛願寺には日本庭園があるし、牛久大仏は中に入って大仏様の親指の模型が見られたり、エレベーターで展望台に上がれたりする。日本の他の寺と比べて、若干長い時間滞在できて楽しめるのも、出かける先としてちょうどいいのだろうと想像できる。
文化庁宗教課所属で東南アジアの仏教史に詳しい大澤広嗣氏は、ベトナム人をはじめとする東南アジアからの移住者が大仏に参拝している現象の背景について、「信仰心もあると思うが、多分に観光的な要素もあるかなと思う」と話す。
日本の仏教には他国ではみられない檀家の風習があり、檀家に入っているわけでもないアジア系在日外国人が信仰で仏教施設に行くことはなかなか考えられないとの見方だ。本当の意味で俗を捨て出家することが普通の東南アジアの仏教徒の目には、結婚生活をして肉を食べたり酒を飲んだりする日本の僧は親しみを覚えづらいのだという。
逆に、「インド―中国―日本」の三国に軸を置く日本の仏教界からすると、(中国の影響を受けたベトナム仏教以外の)東南アジアの上座仏教は、ともすると「周辺」と軽く扱われがちだった歴史がある。日本がアジア各地を侵略した第二次世界大戦中には仏教が工作のツールにすらなった。シンガポールに、奈良大仏より大きな大仏を作ろうという構想もあったのだ。