「いつか夫婦で世界一周したいな」と考える一方で、「老後の資金を考えると、さすがに世界一周は無理かな……」と、諦めてしまう。そんな人も多いはずだ。しかし、世の中には、ずっと世界中を旅してまわっている夫婦がいる。しかも、30代という若さで早期リタイアして、だ。それは、『FIRE 最強の早期リタイア術』の著者クリスティー・シェンとブライス・リャンである。今話題のFIRE(経済的自立と早期リタイア)を成し遂げた二人は、ただ早期リタイアをしただけでなく、世界中を旅するという素晴らしい環境に身を置くことに成功している。リタイア後の生活費だけでなく、旅を続ける資金をどのように捻出しているのか。本記事では、本書の内容をもとに、その秘密をご紹介する。(構成:神代裕子)

FIRE 最強の早期リタイア術Photo: Adobe Stock

一生世界を旅してまわる方法とは

 世界周遊旅行。旅が好きな人なら誰もが一度は憧れる生活だ。

 とはいえ、そこでネックになるのはやはり資金の問題である。

 交通費に宿泊費、せっかくの旅先ならおいしいものも食べたいし、そこでしかできないアクティビティも楽しみたい。

 遠くに行けば行くほど、そして長く旅をするほど費用はかさむ。

 そうなると自然と旅行は「特別なもの」になり、年に1度、または数回の贅沢なものとなっているのが一般的だろう。

 そもそも、仕事をそんなに休めないこともあり、世界周遊旅行なんて夢のまた夢。「退職後に1回でも世界中を旅してまわれたら素晴らしいよね」と考えるにとどまっている人も多いはずだ。

 ところが、『FIRE 最強の早期リタイア術』の著者であるクリスティー・シェンとブライス・リャンの夫婦は30代でFIREを成し遂げた上に、世界中を旅しながら暮らしている。

生活費と同じコストで世界周遊できる

 もちろん、FIREそのものが簡単なことではない。リタイアしたその時から、働かなくても暮らせるだけの資金を整えなければならないからだ。

 その資金だって、派手に使えば当然なくなるのも早い。世界周遊を続けようとしたら、一体どれほどのお金が必要になるのか。多くの人が想像もつかないに違いない。

 しかし、クリスティーは「さまざまな方法で費用を抑えることで、想定していた1年間の生活費でずっと旅をし続けられることがわかった」と語る。

 定住と同じ年間生活費で世界旅行をし続けるなんて、一体どのような魔法を使ったのだろうか。

物価が安いエリアを旅先に織り交ぜる

 クリスティーが語る費用を抑えて旅する方法の一つは、旅先に東南アジアを織り交ぜることだ。

 多くの人が知っているように、東南アジアは物価が安い。

 クリスティーは「タイなら年間1万2000〜1万5000ドルでまるで女王様のような生活ができる」と語る。

世界旅行を計画したいけれど、予算が厳しいと思っているのであれば、東南アジアを旅先に加えましょう。東南アジアに滞在する期間が長いほど、予算が足りなくなるリスクは抑えられます。(中略)そのほかメキシコなどの中南米、東欧、ポルトガルなどの物価の安い地域も同じ効果を持ちます。(P.203)

 物価の高いエリアに1年間暮らし続けるのと、移動費がかかっても物価の安いエリアで一定期間暮らすのは、トータルで見るとかかる費用は変わらないということだ。

 もしかしたら、QOLは後者の方が高いかもしれない。

クレジットカードのポイントをフル活用

 次に、彼らが挙げる旅の節約方法は「トラベルハッキング」だ。

 「トラベルハッキング」とは、世界にある予約サービスやマイレージ特典を駆使して安く旅行ができる方法を発見すること。

 彼らが活用したのは、特典の多いクレジットカードだ。

 登録するだけでポイントが大きく貯まるクレジットカードを申し込み、必要最低限の金額を使った上で、そのカードを解約。そして、それを3〜6カ月待って、同じことを繰り返してポイントを得るのだという。

もしあなたと配偶者がこのカードを申し込み、必要最低限の金額を使えば、ふたりそろって欧州かアジアにタダで旅行できます。登録の際の特典に加えて、多くのクレジットカードは外貨取扱手数料無料、レンタカーの保険加入、無料の食事、飲み物が提供される空港ラウンジの利用など、様々なサービスを提供しています。(中略)世界周遊旅行に旅立つ前、私たちはかなりの数のクレジットカードを申し込み、それぞれで20万ポイントを溜めていました。おかげで長距離路線を利用しても、税金で80〜100ドル払うだけです。年間でおよそ6000ドルを節約しました。(P.204-205)

 FIREする前、クリスティーとブライスは、1年間に必要な2人分の生活費4万ドルを、投資のリターンで得ることができればFIREが可能だと考え、会社を辞めて旅に出た。

 FIREに必要な資産の計算方法やお金の貯め方などは本書に譲るが、いくらFIREしたとはいえ、リタイア後はずっと年間4万ドルという決まった額で暮らすつもりの二人にとって、6000ドルの節約は大きな意味を持つということだ。

 旅費の大きな節約になる点では、FIREしていない私たちにとっても魅力的な方法だ。

 クリスティーも本書「私たちみたいにノマドのような生活をするつもりはなくても、長期休暇の間に利用すればかなりの金額を節約できる」と、勧めている。

Airbnbで暮らすように旅する

 クリスティーたちが活用したもう一つの方法は、民泊サービスの一つである「Airbnb」だ。

 二人は、Airbnbとトラベルハッキングで、実に「年間1万8000ドル」もの費用を抑えたという。

 確かにAirbnbに泊まるのであれば、キッチンや洗濯機もあることが多いので、自炊したり洗濯したりしながら、旅先で自宅のように生活することが可能だ。しかも、価格も安い。

 旅好きの多くが休暇で利用するAirbnbを、日常的に利用することで旅費を節約したというわけだ。

万が一の時のため、旅行保険加入は必須

 こういった方法で旅費を抑えつつも、「世界中を旅してまわる際には、必ず旅行保険に入ろう」とクリスティーは呼び掛ける。保険の掛け金が多少高かったとしても、だ。

 なぜなら、彼らがタイにいる時に、ブライスの祖母がICUに入って危篤に陥ったという知らせが入ったからだという。

緊急の医療費(ひとり当たり100万ドルまで)や(政情不安や自然災害などによる)旅の中断によって生じる費用をカバーしてくれるだけでなく、家族の病気や死亡の際の帰国費用や飛行機とホテルのキャンセル料もカバーしてくれるのです。(中略)海外での長期旅行を計画しているにしても、私たちのようなノマドライフを計画しているにしても、海外の医療保険のサービスを含むクレジットカードを必ず選ぶようにしましょう。もしくは個別で旅行保険に加入してください。(P.207)

 さらに、「旅行保険に入るつもりであれば、必ず母国の保険に加入しなければならない」と指摘する。旅行保険は必要な際に加入者を本国へ送還することも想定しているからだ。

 もし母国で保険に入っていなくても、国外居住者保険というサービスを利用すれば同様の対応が受けられるとのこと。ぜひ活用したい。

お得に安全に旅を楽しむ

 これらの方法を駆使して世界中を旅して回ったクリスティーとブライスは、総額4万143カナダドル(二人で約400万円)で、1年間の世界周遊旅行を終えることができた。

 そうして、今も旅を続けているのだそうだ。なんともうらやましい話である。

 彼らのように、FIREしての旅行はまだまだ先の話になるかもしれないが、長期旅行に行く際はこれらのことを念頭に置いて手配すると、お得に旅を楽しめるに違いない。

 そうして節約すれば、私たちは浮いたお金をFIREするための資金にまわすこともできる。

 いつか、クリスティーとブライスのように、FIREして世界中を旅することを目指して。