さらに構造変革が進む世界の半導体産業
今後、世界の半導体産業の構図は、より大きく、より速いスピードで、変化していくと予想される。ITデバイスなどの生産拠点を中国からインドに移すグローバル企業が増えており、そうした変化を見逃すまいと、インド政府は半導体産業の育成を強化し始めた。
また、TSMCは世界の半導体業界をより強力にリードしようとするだろう。そうして、新しい半導体の生産能力向上に向けた各国の取り組みはさらに強化されるだろう。わが国経済にとっても、そうした動きにどう対応できるかが、重要な局面になる。
1980年代半ば以降に激化した日米半導体摩擦の結果、本邦企業は半導体市場でのシェアを失った。当時、本邦企業が大きなシェアを占めていたのは最先端のロジック半導体ではなく、どちらかといえば汎用型のメモリ分野だった。その後、グローバル化が加速し、米国のIT革命などによって最先端のロジック半導体の重要性が急速に高まった。国際分業体制が強化され、台湾の半導体産業に最先端の製造能力が集中した結果、本邦半導体産業の競争力はさらに低下した。
しかし、だからといって今後もわが国の半導体産業が再興し、成長するのが難しいと論じるのは早計だ。むしろ、そうした考え方や思い込みは、事実を冷静に理解する妨げになりかねない。
次世代の2ナノ以降のチップ製造では、徐々に微細化の歩留まり向上は難しくなり、技術的な革新が必要になる。世界の半導体産業は地理的にも技術的にも大きな変革期を迎えている。だからこそ、わが国は新しいチップ製造に集中すべきだ。
わが国の企業が磨いてきた微細、高純度、精密なモノづくりの力を高め、それをTSMCや米欧の半導体企業の技術、知見と結合することは、新しいロジック半導体創出の可能性を高める。そのためには、ラピダスが国内外の半導体関連企業や研究機関と、より大きな規模で連携を強化することが欠かせない。
そうした上でわが国の企業は、諦めることなく新しい半導体などの製造技術の実現に取り組むべきだ。産業政策、各企業の事業戦略の双方において、戦略物資としての半導体生産能力を強化することは、わが国経済の今後の展開に多大なインパクトを与える。