AIの登場であらゆる分野の
解説が立体的になった
森田 解説ですね。翻訳といってもいいかもしれません。たとえばサッカーでもVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)のようにテクノロジーが最終的に判定したりしますよね。でも、なぜそこに至ったかの過程を説明することはできません。そこは解説者が経験値を基に解説します。
天気予報もテクノロジーが予報を出しますが、なぜそうなるのかは、人が人の感覚と経験値を持って解説するしかありません。将棋が好きなので(笑)つい将棋の話をしてしまいますが、将棋はAIが登場してから圧倒的に解説がおもしろくなったんですね。
それまでは勝負を見ていてもどちらが優勢か局面がわからなかった。でも今はAIによってそれがわかります。そこにプロが理由や考察を加えることで、解説が立体的になった。さらにほかの事象や例えを交えることで、より立体的になります。
それと同じことが天気予報の解説のみならず、あらゆる分野で始まっているのではないでしょうか。今後は、演劇や歌を含め、芸術の世界でもそのようになっていくのだと思います。
森田さんにとって好きな
「天気予報のスタイル」は?
――昨年9月に新著『気象予報士という生き方』を出されました。これまでは天気の入門書のような本が多かった印象ですが、今回、ご自身の半生や生き方について書こうと思った理由は何だったのでしょうか?
森田 私は今、72歳です。日本で最年長のお天気キャスターになりました。私の先輩である福井敏雄さんや倉嶋厚さんも60代で引退しています。出版社さんから今回、オファーをいただいたときに、次の世代のために、気象予報士やお天気キャスターという生き方について、そして気象業界の50年の変遷について、書いておいたほうがいいのかなと思ったんです。
お天気キャスターという職業の歴史を通して最年長に位置している以上、誰かが倒してくれるまで立ち続ける義務があるのではないかと思い、とことんやってやろうと。そういう気構えなども書きました。
――長年、天気予報に携わってこられた森田さんにとって、好きな「天気予報のスタイル」はどのようなものでしょうか? また、好きな天気はありますか?
森田 おもしろいことがしたいんですよ。
世界では、国の形を模したプールの中から伝えたり、手品をしながら伝えたりと、さまざまなユニークな方法で天気を伝えたりしています。日本もかつてはいろいろなパターンがあったのですが、今は防災情報が重視されているため、なかなかそういったことはできません。防災情報を行うと(行政から)予算も付きますからね。一方で天気予報の世界を狭めてしまうことにもなりかねません。
私個人の思いとしては、ひんしゅくを買うことがあるかもしれませんが、天気予報をもっと広く捉えて、みんなが興味を持つようなユニークなことがしたいですね。そうすれば(天気予報に関心を持つ人の)母数が大きくなって広がっていくと思うんです。ですから、気象に関する情報はできるだけ開示したほうがいいと思っていますし、それも自由な形で開示されるべきだと思っています。
好きな天気に関しては、もちろん快晴も好きですが、私はね、嵐や雷が好きなんです。気象データを見たりするとアドレナリンが出ますね。気象業界には案外、そういう人は多いかもしれません。