健康のための「運動のススメ」には辟易するだろうが、ちょいと耳を傾けてほしい。
オーストラリア・シドニー大学の研究者らは、50万人の遺伝情報が集められたUKバイオバンクのデータを使い、日常生活で単発的に発生する高強度の身体活動(VILPA)──たとえば電車に乗り遅れそうになり、駅の階段を1段抜かしで駆け上がるなど──と死亡リスクとの関連を調べた。
対象者はウエアラブルデバイスで身体活動量を記録し、心身の健康状態が判明している2万5241人(女性1万4178人、平均年齢61.8歳)。レジャー系のスポーツはもちろん、週に1回程度の散歩の習慣もない「インドア派」の人たちだ。
およそ7年間の追跡期間中に852人が死亡。がん死が511人、心血管疾患死が266人だった。VILPAとの関連を調べると、全死亡、がん死、そして心血管疾患死ともに、リスクはVILPAが多いほど低下していた。
しかも1日3回、毎回1~2分のVILPAのみで、全死亡リスクとがん死リスクは、およそ4割低下。心血管疾患死リスクに至ってはほぼ半減していたのだ。
1日あたりのVILPA時間でみると、中央値の4.4分/日で、全死亡とがん死リスクがそれぞれ26~30%低下。同じく、心血管疾患死リスクは32~34%低下することが判明している。
ちなみにこの結果は、同じUKバイオバンクに登録している「活発な運動をする習慣がある」と回答した6万2344人の死亡リスク低下率とほぼ同じだった。
時間あたりの健康効果は運動強度に依存する。数分から数十秒でも運動強度が高いほど、心肺機能の強化や、がんの発症や進行を予防する効果は増加するのだ。研究者は「VILPAは事実上、HIIT(高強度インターバルトレーニング)なのだが、皆それとは気づいていないのだ」としている。
ジム通いやジョギングは続かないが、1日1~2分のVILPAなら習慣にできるかもしれない。VILPAのためだからといって、毎朝遅刻ギリギリで家を出るのはお勧めしませんが。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)