ゼロからのスタートだったので、医学書や解剖書を読みあさり、医師、鍼灸(しんきゅう)師など、あらゆる分野の人から話を聞いた。こうして、安全性と効果を両立させた「悟空のきもち」の施術内容が誕生したという。

「しかし、そこで完成ではありません。実際にお客様に体験してもらい、反応を見て、フィードバックしていく……その繰り返しでした。オープンしてすぐは客足が思うように伸びなくて危機感を覚えた瞬間もありますが、試行錯誤を重ね、半年後には2店舗目を出店できたのです。やはり、今まで供給がなかっただけで『頭だけをほぐしてほしい』という需要は確実にあるのだと実感しました」

マーケティングは一切せず
顧客と従業員の声を重視

 時流に合ったリラクゼーションは、瞬く間に多くの人々からの支持を獲得した。関西圏を中心に店舗を増やし、2013年には東京にも出店を果たす。そして2年後、大きな転換点が訪れた。

「2015年に、現在当店のすべてのコースで採用している『絶頂睡眠』の施術を始めたのですが、開始すると即予約が殺到し、キャンセル待ちのお客様が出るほどの人気となりました。実は、開業当初から睡眠に特化したサービスを打ち出したかったのですが、当時は『日本人は睡眠に対する意識が低い』というイメージが強く『睡眠を絡めたサービスは興味を持たれないだろう』と決めつけてしまっていたのです」

 しかし、日々顧客の声を聞くなかで、「リラクゼーション中に寝落ちした人のほうが、終わった後のスッキリ感が大きい」という事実を知り、睡眠と施術を結びつけていこうと考えたそうだ。

「市場には、これまた前例がありませんでしたが、『絶頂睡眠』を提供し始めたところ、驚くほどの反響がありました。人々が抱える悩みやトラブルの解決に向けて、まだ誰もやっていないことをやろうとするならば、目の前にいるお客様の生の声に耳を傾けることは不可欠です」

 施術内容において“顧客の声”を重視する金田氏だが、経営スタイルを決めるに当たり、同じくらい大切にしているものがある。同店で働く“セラピストたちの声”だ。

「お客様に満足していただくためには、セラピストの高い技術が必須です。そこで、彼女たちがスキルアップのためにストレスフリーな環境で意欲的に仕事に取り組めるよう、意見を聞き、快適な職場環境の実現に注力しています」

 たとえば、「悟空のきもち」は全店で、店長やマネジャーといった役職を設けていない。役職があることで人間関係にあつれきが生じたり、業務内容の差が生まれて衝突したりするためだ。「横のつながりを大切にしたい」というセラピストたちの思いが、聞き入れられたわけだ。