しかし、「成功確率30%」のアマゾンと比べても、マスクが起業したスペースXはさらにリスクの高い事業だった。

 実際、マスクの友人たちは、マスクが本気で宇宙ビジネスについて検討をし始めた時、ロケット爆発の映像を集めたビデオを見せて、お金の無駄遣いを阻止しようとしたくらいだ。

「イーロンのやっていることはおかしい。慈善事業だかなんだか知らないけどイカれてるね」

 マスク自身も、火星に人類を送り込むプロジェクトは人をわくわくさせるものの、100%の損失を見込むものだと覚悟していた。こう話している。

「始めた当初、こう思っていました。『スペースXは確実に失敗する』」

 もしかしたらどこかがスポンサーになってくれるかもしれないものの、短期間で利益が出るはずはないし、会社として大きな損失を被ることになるとも覚悟していた。それでもやらなければならない、というのがマスクの考えだった。

日本でイノベーションが起こりにくい理由

 当たり前の話だが、確実に儲かる事業なら誰だって喜んでお金を出すし、参画しようとする。反対に失敗の可能性が滅茶苦茶高い上に、大きな損失も出る事業にあえて参画する企業はほとんどない。

 日本でイノベーションが起こりづらい理由の一つとしてしばしば指摘されているのが「無謬性の原則」だ。日本の大企業や官僚機構に見られる現象で、「あるプロジェクト(政策)を成功させる責任を負った組織や当事者は、そのプロジェクト(政策)が失敗した時のことを考えたり議論してはいけない」という大原則だ。これでは「この政策はうまくいかない」とわかったとしても、軌道修正もできなければ、やめることもできなくなってしまう。

 こうした大原則が支配している企業や組織で、ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクが生まれるはずはない。マスクの強みについて、最初の妻がこんなことを言っている。