男性優位社会で、責任ある立場につくのは多くが男性だった。女性は家庭に押し込められ、個性と能力の発揮できない状況を強いられながら育児家事をひとりで担う一方で、男性は「一家の大黒柱」としてのプレッシャーを抱えて企業戦士としてモーレツに働いてきた。もちろん、専業主婦/主夫もまた孤独を抱えて苦しんできた事実はある。ただ、「悩みを吐き出すことは弱い人間である」といったスティグマ的思考のもとで、役職が上がるほど、周囲に相談もできず、ひたすら孤独に耐えてきた男性たちがいたことも事実だろう。そして多くの男性が自ら命を絶ってきた。

 残念ながら、現在の日本には、スティグマ対策という政策概念すら存在していない。責任ある立場の人を含めて、すべての人が「頼ることは弱いことだ」「誰かに相談することは負けである」といったスティグマを感じない社会にしなければならない。それができなければ、今後は女性活躍によって女性の自殺者が増えるということにもなりかねない。

責任ある立場で
悩みを明かせない男性の孤独

 責任ある立場の人が相談しづらい環境を放置した結果、自ら命を絶つ。中高年男性の自殺にはこのような背景が多いと前述したが、彼らがどのような苦しみを抱えているのかを具体例から見ていこう。

 Cさんという40代の男性から相談があった。Cさんは、「いますぐ命を絶ちたいです」という言葉から相談が始まる、極めて自殺リスクの高い相談者だ。私たちの相談窓口を訪ねる中高年男性の多くは、悩みを抱えて逡巡したあげく、あなたのいばしょ(※大空氏が代表を務める24時間対応、無料・匿名のチャット相談)にたどり着く。その時点で、強い自殺念慮を抱えている場合がほとんどだ。私たちは、まずはCさんが、安全な状態にいることを確認したうえで、相談を開始した。

 相談過程で明らかになった、Cさんが最も悩んでいることは、会社内での人間関係だった。Cさん自身は管理職で責任ある立場だったが、その責任ゆえに、部下とどのように接していけばいいのかわからなくなってしまったのだという。さらに、Cさんの上司からのパワーハラスメントもあり、社内のほぼ全方位にわたる人間関係で悩みを抱えている状態だった。社内に自らの心情を吐露できる人はひとりもおらず、会社に通うための電車に乗り込むことさえストレスを感じるようになった。