書影『望まない孤独』(扶桑社)『望まない孤独』(扶桑社)
大空幸星 著

 私たちは、Cさんの会社や家庭に入っていって、人間関係などについて解決することはできない。また、もし仮に問題を解決できたとしても、その先の長い人生で抱える悩みのすべてを私たちが対処することなどとうてい不可能だ。悩みを抱え、孤独に苛まれた結果、誰にも頼れないときに「あなたのいばしょへ行けば話を聞いてくれる人がいる」と思い、生きる糧にしてもらうことこそが私たちが目指す相談窓口の在り方だ。Cさんは、相談員がCさん自身にかけた言葉をお守りのように持ち歩き、また「しんどい」と思ったときは、「上司だから弱みを吐いてはならない」といったスティグマにとらわれることもなく、相談窓口を頼ってきてくれるかもしれない。

 しかし、かつてのCさんがそうであったように、組織の中で責任ある立場の人の多くは誰にも頼れずにひとりで孤独を抱えこんでいる。「責任ある立場」という役割によって、周りに自らの弱みと認識される可能性のある「頼る・相談する」という行為が制約される。そうした状況に置かれると、「悩んだり苦しんだりするのは自分が至らないせいだ」という自業自得な感覚を自然に抱きはじめるのだ。そして、社会もそれを容認するため、懲罰的自己責任論に基づく自己否定ループに陥っていく。

 この懲罰的自己責任論は、自己否定ループを生み出すだけでなく、孤独を抱えても誰にも頼ってはいけないというスティグマを強化していく。そのため、「自業自得」という考えに近い懲罰的自己責任論をいかにして乗り越えるかということこそ、望まない孤独のない社会を形成するための重要なポイントとなる。