関西電力の送電線と鉄塔Photo:PIXTA

関西電力など大手電力の送配電子会社から小売り部門への情報漏洩(ろうえい)が続々と発覚している。送配電子会社が管理するライバルの新電力の顧客情報を小売り部門が閲覧できる状態だった。新電力側は大手電力小売りが営業活動に不正利用していたとの疑念を抱いている。2016年の電力小売りの完全自由化直後に問題化した、大手電力小売りが不当に安い料金を提示して顧客を取り戻す、いわゆる「取り戻し営業」について再び議論の俎上(そじょう)に載るかもしれない。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

競合の顧客情報筒抜けの不祥事
ここでも発覚の皮切りは関西電力

「電力カルテルによる巨額課徴金案の衝撃が大きすぎてメディアの扱いは今一つだが、カルテル並みにひどい問題ではないか」

 現時点では問題とは無関係という、ある大手電力会社関係者はいぶかる。

 問題とは、大手電力傘下の送配電会社から小売り部門へ、託送システム上の顧客情報が漏洩していた件だ。送配電子会社が管理する新電力の顧客情報を関電の小売り部門が閲覧できる状態だった。

 これは情報漏洩と言えばまだ聞こえは良いが、要するに「小売り部門が盗み見して営業活動に使用していた」疑惑が浮上しているのである。

 電力システム改革で、大手電力による小売り独占は2016年に完全撤廃され、新電力と呼ばれる新規企業の参入が相次いだ。

 一方、鉄塔や電線といった送配電事業は、旧来の大手電力10社によるエリアごとの独占が残された。ただし公平な競争環境を作るため、電気事業法で送配電事業は、取引先である大手電力に対しても新電力に対しても中立であることが求められた。

 資本関係は維持されているものの、大手電力の送配電事業と小売事業には厳格なファイアウオールが築かれたと誰もが思っていた。だが、22年末に関西電力で発覚したのを皮切りに1月27日夕までに、東北電力、九州電力、四国電力、中国電力、中部電力でファイアウオールの不備が明るみに出た。

 これまでに、関電は一部で営業活動に活用していたことが判明。他5社では営業活動での活用は確認されていない。ただし各社の内部調査が進めば、該当企業および営業活動に活用していたケースがさらに発覚する可能性がある。

「関電は経営陣が原発立地関係者から小判を受け取っていた『小判事件』以来コンプライアンス意識を改め、電力カルテルでは真っ先に公正取引委員会に申告したとされる。情報漏洩問題でも関電スタートとは、まさに『小判キック』だ」と、別の電力業界関係者は苦笑いする。

 キックとはIT用語で「既に動いているプログラムから別のプログラムを起動させる」という意味。不祥事そのものへの批判はさておき、毎回関電を起点に、業界の健全化の動きが起きているという皮肉である。

 今回の問題発覚で溜飲を下げているのが新電力の面々だ。「疑惑がやっと表沙汰となった。大手電力による『取り戻し営業』が再度議論の的になるのではないか」と、ある新電力関係者は話す。規制当局すら想定していなかった「取り戻し営業」の抜け道とは。