東京電力ホールディングスを筆頭に、電力業界は2023年春以降、一段と厳しい経営環境に置かれる。特集『総予測2023』の本稿では、さらなる“市場撤退”が相次ぎそうな新電力など、大逆風が続く業界を展望する。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
東北、関西、中部で1000億円超
中国電力で2000億円超の赤字予想
2022年までの電力業界を振り返れば、火力発電所の主力燃料である液化天然ガス(LNG)などの価格高騰で、電力小売り事業を行う電力会社は調達コストが上昇。販売価格に転嫁するタイミングが遅れたり、転嫁しきれずに自腹を切ったりする事態が続出し、電力会社の経営を圧迫してきた。
厳しい環境は大手電力の決算数値に表れている。23年3月期の業績予想を公表している大手8社は全て最終損益が赤字となる見込みだ。
例えば、東北電力と関西電力と中部電力は1000億円超の最終赤字となる見通し。特に“火の車”となるのが中国電力である。法人向け電力の販売を巡るカルテル問題の課徴金として707億円の特別損失を計上し、連結最終損益は2097億円の赤字となる見込みだ。これは過去最大の赤字額となる。
新電力はとっくに存亡を懸けた大淘汰時代に突入している。22年12月1日には、東北電力と東京ガスが共同出資する大手のシナジアパワーが破産手続きに入った。多くの新電力が「事実上の撤退戦」に突入し、顧客離れを見越した大幅値上げ、新規受け付け停止、契約更新拒否といった流れを歩んだ。
新電力の撤退は、大手電力をさらに苦境に追い込んだ。新電力の顧客が、地元の大手電力に流れ込んでいるためだ。市場に残るほど業績はさらに悪化する負のスパイラルを生み出している。
電力大手が打開策として期待するのが、値上げだ。国が認可すれば、23年は東京電力ホールディングス(HD)など大手電力7社が相次いで「規制料金」と呼ばれる主に家庭向けの低圧区分の値上げに踏み切る見込みだ。
7社が自社のエリアで値上げすれば、電力小売りを手掛ける新電力も低圧区分の値上げで追随するだろう。そうなれば、燃料価格の高騰を販売価格に転嫁しきれないという苦しい状況はかなり改善される見通しだ。
7社の値上げは23年4月以降になるとみられている。しかしその頃には、電力業界は「二つのリスク要因」に直面しなければならないかもしれない。次ページでは、それら二つのリスク要因について解説していこう。