採用段階のコミュニケーションが分かれ道
「就業レディネス」を高める方法
このような学生の志向と売り手市場を背景に、企業は学生に合わせた採用方法を模索している。採用後に配属を決定し、多様な経験を通じてキャリアの方向性を探る「メンバーシップ型」の考え方から、応募や採用の時点で職務や勤務地を特定する「ジョブ型」の採用へと転換を図る企業も増えてきた。
しかし、学生は入社前に自身の志向や適性を十分に理解しているとは限らない。なぜその職種や勤務地を選択するのか、適性はあるか、入社後にどのようなキャリアを歩むことになるかについて十分に対話がなされなければ、かえって入社後のミスマッチを助長することにもなりかねない。これが最近の採用コミュニケーションにおける課題だ。
ミスマッチを防ぐためには、学生が企業との接点の中で仕事内容や働き方を理解するとともに、社会人としての自分をリアルに想像できることが重要だ。こうした、学生から社会人となるに当たっての心構えを整えることを「就業レディネス」という。
自己理解と社会人としての自覚を持つという2つが就業レディネスの要素だが、今回の調査では、自己理解ができている学生は6割前後で、社会人としての自覚を持つ学生は5割未満。社会人としての自覚を持つのは、自己理解に比べてさらに達成が難しく、社会人や企業との接点の中で自覚を高めていくことが重要だ。
なお、ここで言う自己理解とは、就活に迫られてする短期的な自己分析ではない。勉強、研究、アルバイトなどいろいろな体験を通じて自分とは異なる人と接する中で、興味や関心、視野を広げて進路を選択し、目標設定して情報収集していくプロセスの中で深まっていくもの。入社後のキャリア構築やリスキルの土台にもなる。
入社予定先に納得している学生は、それ以外の学生より、ネガティブな情報も含めた現実主義的な情報開示(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)を受けたと感じている。就活中に企業からきちんとフィードバックされたと感じた学生は約6割で、そのうち約7割がその企業に対し好印象を持っている。
入社後に社員が定着して活躍するか。メンタル不全、早期退職になるか。その分かれ道を左右するのは、採用段階でのコミュニケーションだ。新入社員がどの部署に配属されるか分からない不安を表す「配属ガチャ」という言葉は、企業の一存で自分のキャリアが決まってしまうことに対する不安から来るもの。就職・採用活動の過程で、学生と企業がお互いに感じる魅力、期待、不安、懸念点などを誠実に伝えあい、納得感を持って採用・入社に至ることが重要となる。
コミュニケーションを通して学生の就業レディネスを育てていく就職・採用活動は、オンライン選考が増える以前から十分に行われてきたとはいえない。企業側の支援が必須で、その鍵を握るのは企業から学生へのフィードバックだというのが調査結果から分かる。
企業が社会人の視点で捉えた学生の人物像をしっかり伝え、学生にその会社で働くイメージを持ってもらう。今後に向けた期待を伝えていくことで、就業レディネスが育っていく。それが不確実な中で意思決定するためのよりどころとなり、入社後の適応の促進につながる。それがしっかりできる企業こそが、採用を差別化できるのだ。