山積みされていた問題
一般的に、上場するには少なくても10年、その準備だけでも3年はかかるといわれている。創業社長である小嶋雄介は、2020年春の上場を思い描いていた。それまでに残された猶予期間は1年半。普通に考えるとまず不可能なミッションである。
さらに“爆速成長”のマクビーは、短期間の内に社員数は一気に増えたがゆえに、体制や仕組みが整っていないままバックオフィスが機能し続けていた。そのため全部署の業務内容を一覧化した既存のスプレッドシートは実情にそぐわない、実際的に使えるようなものではなかった。バックオフィスに本来あるべき緻密な計画がなく、さまざまな無駄から発生する、実のない仕事が山積みされていた状態だった。当時のぼくは管理部長という役職で、この状態にメスを入れていくのが最初の仕事となった。
このような状態は非常に危険で、マクビーがこれからも成長していくためには、社員が一丸となって目指すべき目標を設定して共通認識のもとに組織の体制を整える設計図を共有しなければならない。上場についても同様で、上場に必要な要件を「どのような順番で」、「どのようなプロセスで」、「どの期限までに用意するのか」の道標と設計図がなければ、どだい無理な話である。
結局ぼくは、業務の実情を把握するのに数ヵ月、そこで見えてきた問題点を改善して効率的な管理体制を整えるのに丸々半年もかかってしまった。これがIPOの具体的な準備の前段階である。いたずらに時だけが過ぎていく。ぼくは何度となく上場予定日から逆算してスケジュールを立ててみたが、そのたびに実現可能性の低さに暗い気持ちになった。
ぼくを後押ししてくれた仲間たち
こうしてマクビー入社から半年経ったが、ぼくはほかの社員から見て「なんだかわからない人」であり、孤独な戦いを続けていた。そもそもの業務自体の量が多かったこともあるが、最もつらかったのは上場という大きなプロジェクトを遂行する仲間がいなかったことだった。
それでもぼくの雰囲気を察してくれた人事部長の前橋匠は何気なくフォローしてくれたし、「ハニカム」と「Robeee」を開発したエンジニアである高原英実や取締役である浦矢秀行とは、それぞれの立場から上場に対する考えやその先の未来などを忌憚なく意見交換できた。また、管理部の新たなメンバーになった廣瀬ちひろや第一コンサルティング部の原田佑太などの若手有望株とは、親交を深めるだけではなく、孤独感に苛まれていたぼくのメンタル面を支えてくれたと思う。
ぼくは彼らと親交を深めていくなかで、この大きなプロジェクトを成し遂げるためにメンバーの気持ちを置き去りにしてはならないこと、そしてそれぞれが抱える心情や立場が自然と交錯してくるのだと、身に染みてわかった気がする。マクビーに来るまでのぼくはさまざまな企業の上場に携わってきたが、それはいずれも「外部の人間」としてである。だが、今のぼくは違う。ぼくは初めて「その企業のいちメンバー」として上場ミッションを遂行するのだ。「自分の会社」の上場に向かって、ほかの社員と一緒に動いているのだ。ぼくには仲間がいる。それは上場を実現するうえで大きな後押しとなった。次回記事では、マクビーがいよいよ上場に至る「直前期」のリアルについて話を進めていこう。