「マンションの相続税評価」見直しで
もはや富裕層の節税に出口なし!?

「令和5年度税制改正大綱」の「マンションの相続税評価について」文言は以下の通りだ。

 マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。

「市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケース」とは、いわゆる「タワマン節税」スキームを指していることは想像に難くない。タワーマンションが節税になる理由は、簡単に言えば、こんな仕組みだ。マンションの相続税評価は所有区分の階数に関係なく算出される。ところが、タワマン市場の実勢価格は高層階になるほど高額で取引されるため、その差額が節税になるというわけだ。

 マンションの相続税評価は所有区分に応じて土地と建物に分けて行うが、土地は公示価格の80%程度の相続税路線価に基づき、建物は公示価格の60~70%程度の固定資産税評価額と同額になる。被相続人がその所有区分を第三者に賃貸していれば、評価額は土地も建物もさらに20~30%程度下がる。

 また、被相続人がローンを組んで購入していれば、債務控除できる場合もある。しかも、相続人が相続税の申告・納税後に売却すれば、相続財産評価額に含まれない売却益も財産として得られる可能性が高い。そのため、タワマン相続は評価額をめぐって、たびたび納税者と税務署との間で裁判沙汰に発展してきた。

「マンションの相続税評価について」は、この問題に終止符を打とうというものだ。閣議決定された「令和5年度税制改正の大綱」に具体案は示されなかったが、税負担の公平性の観点から、国税庁も高層階ほど評価額が高くなる時価の算出方法等を検討している。23年中にも有識者会議で具体策を打ち出す方針だ。

 なお、タワマンの相続税評価に関する納税者側と税務署側の主張の食い違いは、相続税法第22条に記された「時価」の解釈の違いと言ってもいいだろう。納税者側は財産評価基準による「相続税路線価」を時価とし、税務署側は財産評価基本通達6項による「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価」に基づくとしている。

 また、行政手続法の通則に関する(処分の基準)第12条2には、「行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」とある。しかし、総則6項の「著しく不適当」との表現は余りにも曖昧で具体的でないと、これまでも議論を呼んできた。

 富裕層による相続税対策の出口を塞ぎたい国税庁は、国民が納得できる具体性を示せるのか。あるいはもう一歩踏み込んで、「時価」の基準について相続税法の改正にまで至るのか。その点にも注目したい。