Z世代に「蛇口居酒屋」がウケる
意外な理由とは

「最近、お酒が出る蛇口が座席についていて、客が自分で注いで飲める蛇口居酒屋がやたらと増え、Z世代の若い子たちにウケている印象です」

「若者がタイパ主義とは思えない」Z世代研究の第一人者・原田曜平氏が断言の訳「ときわ亭」の卓上にあるサーバーの例(出典:「ときわ亭」公式サイト

 人々がコロナ禍に慣れ、飲食店に活気が戻ってきて以降の「飲み会事情」について、原田氏はこう分析する。

 例えば、蛇口居酒屋の先駆者とされる「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」は、その名の通り卓上のサーバーから自由にお酒を注げる仕組みであり、60分550円でレモンサワーが飲み放題だ。コロナ禍の中でも出店を加速し、今では全国に77店舗を展開している。

 銀座・コリドー街の「蛇口焼酎酒場 ぎん天」(22年9月開業)では、卓上の蛇口から焼酎を注いで飲むことができる。

 原田氏は当初、こうした居酒屋の人気が出ている要因について、「若者はお酒を注文した後、店員に持ってきてもらうまでの待ち時間がもったいないのだと思っていた」という。

 だが、実際に調査をしてみると、そうではない意外な実態が見えてきた。

「近年は『若者の酒離れ』が進み、飲まない人も多くいます。ですが、同年代の飲み会では、飲酒量を問わず『割り勘』になることが多く、飲めない若者は理不尽さを感じていたようです。そこから一転、Z世代の間では今、お互いのペースに配慮しながらお酒を飲む人が増えていることが分かりました。

 例えばお酒が好きな子は、『飲めない人もいる中で、たくさん飲むと申し訳ない。割り勘だし、ペースを落とした方がいいのかな』と慎重になっています。また、あまり量を飲めない子も、よく飲む子に対して『あいつばかり飲ませて悪いな。俺も頑張ってペースを上げようかな』と気を使っているんです。

 そうした中、普通の居酒屋では、どうしても仲間への気遣いに意識が向いてしまいます。でも座席に蛇口があれば、グラスが空にならなくても、少しひねればすぐにお酒を足せる。お酒の増減も分かりにくく、飲み干したグラスが机の上に並ばない。だから、気を使い過ぎずに飲める。若者たちは、こんな理由で蛇口居酒屋を訪れていたのです」

 人間関係は単純なものではなく、「かけた時間に対しての満足度」が確実に得られるとは限らない。それでも若者たちは、久しぶりに会った友人の体調やペースを探り、お互いに気を使いながらお酒を飲んでいる。そして、誰もが楽しめる場として蛇口居酒屋を選んでいるのだ。

 このZ世代の消費行動を、原田氏は「同調飲酒」と名付けている。

 最近は「若者=タイパ主義」と並んで、「Z世代はコロナ禍によって人間関係が希薄化している」という説も世の中に定着しつつある。「若者は動画を倍速視聴することで、言葉では表せない感情を読み取れなくなる」と指摘する有識者も存在する。

 だが今回の調査からは、必ずしもそうではない一面がうかがえた。

「若者の流行は、全世代に広がる可能性を秘めています。歌手・瑛人さんの『香水』という曲がTikTokでバズり、大人からも知られるようになった結果、2020年の紅白歌合戦に出場したのが良い例。若年層のトレンドを今のうちに知っておくと、これからの流行を先取りし、マーケティングに生かせるはずです」と原田氏は力説する。

 その上で必要になるのは、「若者はタイパ主義」だとひとくくりに論じるのではなく、若者の対人関係や消費行動の細かな変化に目を配ることではないだろうか。

>>本記事の後編『「若者はタイパ主義」に異議!背徳友情、呼び出しおしゃれ…Z世代の新流行』を読む