気候・環境の非常事態の時代、大学に潜む真のリスクとは9nong / Shutterstock

気候変動問題は、その多くが人間活動に由来するものであり、持続可能な環境づくりは人類共通の喫緊かつ最重要の課題である、という認識はもはや世界のコンセンサスだ。しかし、2021年7月に日本の国公立大学として初めて「気候非常事態宣言」を発出した東京都公立大学法人の理事長・山本良一氏は、気候科学の知や技術を生み出す最前線である「大学」の動きが遅い、と警鐘を鳴らす。今大学が社会から求められている新たな役割を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美)

気候非常事態宣言は「社会貢献」ではない

――オーストラリアの民間組織「CEDAMIA(セダミア)」の統計によると、2022年3月現在、世界の2082の自治体、17の国およびEUが気候非常事態を宣言しています。日本国内でも、すでに118の自治体が宣言しています。

山本 世界の動向を見ると、19年に気候非常事態宣言が爆発的に増加して以降はやや失速ぎみですが、日本国内ではむしろこの2年で急増しています。それで良いのですが、気になるのが大学の動きの鈍さです。

 カーボンニュートラルを目指し、さまざまな取り組みを進めている大学が増えつつあるのは新しい動きです。例えば龍谷大学は、カーボンニュートラルの早期実現を目指して地域貢献型のメガソーラー発電所を稼働させました。こうした動向はもちろん好ましいものですが、全体として日本の大学には、海外の大学に見られるような危機感が希薄です。事実、これまでに気候非常事態宣言を発出した大学は、われわれの他に、千葉商科大学、聖心女子大学、創価大学、関西大学など、わずか6大学です。

――なぜでしょうか。

山本 大学が気候変動問題に対するアクションを、まるで「社会貢献活動」と捉えているように見えるのです。

――現実はもっと切実だということですか。

山本 もちろんです。気候や環境の非常事態は、惑星規模の非常事態であり、「大学の存立そのもの」を脅かします。それを自覚していれば「環境を救うために手を差し伸べる」といった悠長なスタンスではいられません。例えば、昨年英国のヨーク大学のイオアン・ファゼイ教授らが発表した論文には、気候変動によって大学が直面している3つのリスクが詳細に述べられています。

 第1に、気候変動がもたらす直接的な危機です。これは大学に限った話ではありませんが、異常気象で災害が頻発すれば、防災にも、被災した場合の復興にも莫大な費用がかかります。また、今回のコロナ禍のような事態が起これば、大学の広大なキャンパスや設備は座礁資産になりかねません。これまでのビジネスモデルが通用しなくなるのです。

 第2に、大学という概念の危機です。気候変動によって、アカデミアが果たすべき役割は大きく変化しました。環境問題のような複雑かつ緊急度の高い社会的課題に確実にコミットし続けるために、多分野との連携やスピーディーに「成果」を出す仕組みが不可欠なのです。これまで「正しい大学の在り方」と考えられていたルールや組織構造を全面的に見直さなくては、こうした役割は果たせません。

 第3に、大学の存在価値の危機です。第1、第2の危機からも分かるように、大学の存在意義が問われているのです。この非常事態を乗り越え、長期的に価値ある存在であり続けるためには、長く堅持してきた理念や存在意義の再構築も視野に入れなければならないのです。

 併せて、気候・環境教育のメインストリーム化も急ぐ必要があります。日本では、持続可能な開発のための教育(ESD=Education for Sustainable Development)に10年以上取り組んでいますが、直面している気候と環境の非常事態を踏まえると、もっと短いタイムスパンで考えなければ間に合いません。