一方、HOWばかり意識しているマーケティング部門の人は、そのプロダクトに価値を見いだしてくれるはずのお客さまの存在に気づかない。そのため、本来はそのお客さまに対して届けるべき便益と独自性があるのに、価値を見いだしてくれそうもない人たちに向かって訴えていることも。

 自社の開発チームは、誰がお客さまかわかっているのにもかかわらず、結果的に、そのプロダクトを真に欲しているお客さまには届かない、つまり商品が売れないということになってしまうのです。

 コミュニケーションアイデアを考える前に、プロダクトアイデアをWHOとWHATの関係で徹底的に考えることで、売上拡大のチャンスが見つかることが多いです。これまでさまざまなプロダクトや事業に関わってきましたが、「既存の商品やサービスでは新しいお客さまはもう増えない」というケースはありませんでした。プロダクトの成長余力を100%発揮できているケースはまれで、WHOとWHATの関係で考えていないので、企業がその成長余力に気づいていないケースのほうが多いと思います。

 一方、自分たちが提供しているプロダクトの価値に気づいて成功したケースには、こんな話があります。

 料亭や日本料理店で料理を出す際に葉っぱを飾ることがあり、これは「つまもの」と呼ばれています。野山にあるときは、ただの葉っぱなのに、食卓に飾れば美しく食欲をそそり、食体験を演出する飾りや器になるわけです。

 徳島県上勝町に、先駆的にこの事業を起こした「株式会社いろどり」という会社があります。そこでは過疎化の進む集落で、平均年齢70歳以上の女性たちにきれいな葉っぱを集めてもらい、料亭などの飲食店に卸しているそうです。

 この事業をはじめた方は、野山にある葉っぱが提供し得る便益と独自性を見つけたのです。そして、その価値を感じてくれるお客さま(飲食店のオーナーや飲食店のお客さま)を探しだして提供した。葉っぱの事業は今では町を代表する事業に成長しているそうで、葉っぱに便益と独自性を見いだし、それを必要とするお客さまにつなげることができれば、新しい価値をつくり出し、立派なビジネスになるという一例です。