セロトニンを増やす作用がある炭水化物と、セロトニンの原料となる「トリプトファン」を含む卵やチーズ、バナナを朝食のメニューに組み込むのが、症状の改善におすすめなのだとか。「トリプトファンを含むアミノ酸を効率的に摂取できる肉や魚、緑黄色野菜や果物をうまく組み合わせられると、より効果的です」と、加藤氏は話す。

 また、「冬の過ごし方として、太陽を意識することも重要だ」と、加藤氏は強調する。

「曇りの日であっても、朝、屋外に出ると1万ルクスの自然光を浴びることができるといわれています。メラトニンを分泌して、13~15時間の睡眠タイマーをセットするために、朝、日光を浴びる生活を心がけることが望ましいですね」

 せっかく睡眠タイマーをセットしても、夜、布団の中でスマホを見てしまえばバックライトを至近距離で浴びてしまい、メラトニンの分泌に影響を与える。遅い時間にスマホを触るのは、避けたほうが賢明だ。

季節性うつと
五月病の違いとは

 春にかかることの多い「五月病」。特定の時期に気分が落ち込み、人付き合いを避けるようになるなど、季節性うつに近い症状にも思える。五月病と季節性うつは、同一の病と言えるのだろうか。

「『五月病』は、環境の変化に対応できなくてストレスがかかるため、適応障害や新型うつ病、非定形うつと呼ばれるうつに近い」と、加藤氏は言う。

「表れる症状だけで比較すれば、五月病も季節が決まっていると言う点では、季節性うつに共通する部分はあります。しかし、環境や役割の変化のストレスがきっかけになっている五月病と、光の感受性が高い体質のせいで体調を崩す季節性うつは、本来似て非なるものなのです」

 ただ、従来のうつは「眠れない」「食べられない」状態が続き、明らかな体調不良が“可視化”(周囲の人に分かりやすい)されることが多い。そのため、五月病や季節性うつの場合は、「うつ」と聞いて周囲の抱くイメージと周りから見た自分の体の調子が一致しないことも少なくない。

 五月病や季節性うつになる人の中には、自分に厳しくて考え込んでしまう性格だったり、周囲からの理解が得られない環境だったりして、追い込まれてしまう人もいる。その結果、規則正しい生活をしていても症状が緩和せずに「二重うつ」の状態になる人も。

「例えば『季節性うつのせいで冬は調子が悪い』という心身の状態を自認できずに、頑張って努力しても報われないと『学習』してしまうと、いわゆる普通のうつ病を併発する可能性があります。周囲や自分自身が季節性うつを受け止められる環境を築けていなければ、症状をさらにこじらせてしまうのです」

 自分の困りごとが何かを言語化できるように心を整えていくことで、他者に自分の状態が伝わり、周囲の環境が改善されることもある。こうした心の整理が、うつの深刻化予防の第一歩だと、加藤氏は話す。

 そもそも季節性うつは、厳しい冬が訪れることを素早く察知できるように、遺伝的に組み込まれてきた能力だともいわれている。だが、特定の周期に調子を落としてしまう遺伝的なハンディを抱えていては、心身に負担がかかってしまうと想像するに難くない。

 もし冬に調子を落としてしまうのであれば、「自分は怠け者だ」と責めることはせず、ちょっとした朝活を暮らしに取り入れてみると状況が好転するかもしれない。いつもより少し早い時間に起きて、カーテンを開けてみてはいかがだろうか。

<識者プロフィール>
加藤 正 氏:精神科、心療内科医。名古屋市立大学医学部を卒業。岐阜県立多治見病院精神科、名古屋市立大学病院臨床研究医、八事病院での経験を経て、1991年にあらたまメンタルクリニック(現・あらたまこころのクリニック)を開業。日本うつ病学会から「うつ病の薬の適正使用」のテーマで、2019年度下田光造賞を受賞。精神科医として38年の経験をもち、患者と向き合い、薬に頼りきらない治療を目指している。