歴代首相とは異なり
首相就任後も派閥のトップを継続
さらに言えば、岸田首相は首相就任後も岸田派(宏池会)の会長職を続けている。一方で、歴代首相の多くは首相就任に当たって派閥のトップから降り、派閥から離脱してきた。
岸田首相の対応は異例である。菅前首相や石破茂元幹事長などが、現首相の「派閥主義」に批判を展開したこともある。だが、岸田首相はこうした指摘も気にしているようには見えない。
一連の事象からは、岸田首相が「世襲」「男性社会」「派閥・学閥」を当たり前とする文化の中で生きてきたことがうかがえる。繰り返しになるが、これらは20~30年前から批判されてきた「古い価値観」である。
岸田首相は国のトップとして「国民の声を聞く」ことに注力しているのかもしれないが、筆者の目には「古い価値観」から今一つ脱却しきれていないように映る。
そんな岸田首相および岸田政権の今後はどうなるのか。もしかすると、さらなる支持率低下によって政権基盤が不安定化し、「倒閣」の動きが出てくると予想する人が多いかもしれない。
だが、これまでの批判とは矛盾するようだが、筆者はそれとは逆のことを考えている。
岸田首相が持つ、ある種の「古さ」が強みとなり、野党や与党内の反主流派といった「政敵」に難しい状況をもたらす可能性があるのだ。
筆者は本稿の冒頭で、岸田首相が支持率低下に動揺していないと指摘した。それは、まさに首相が「古いタイプの自民党政治家」だからなのである。
小泉純一郎政権以降、自民党政権は内閣支持率の推移にデリケートに対応するようになった。それは、90年代の政治改革による「小選挙区比例代表並立制」の導入が背景にある(第1回)。
中選挙区制の時代、自民党だけが1つの選挙区に複数の候補者を立てることができた。そのため、政権交代が極めて起こりづらく、自民党の候補者同士が「政策」ではなく「利益誘導」を争った。
この時代の自民党政権は、現在ほど内閣支持率を気にすることなく「消費税導入」などの「不人気だが必要」といえる政策を実現していった。
一方、小選挙区制が導入されると、選挙は「利益誘導」から「政策」中心に次第に変わっていった。自民党も「一つの選挙区に立てられる候補者は一人のみ」となり、自民党の一党優位が崩れ、支持率の低下が政権交代に直結するリスクに直面した。
そうした中で、第2次安倍政権が、持論を押し通して壊滅した第1次政権の反省を踏まえ、内閣支持率の推移に極めて敏感な政権運営を行ったことは記憶に新しい(第308回)。