毎年、10月は乳がん啓発のピンクリボン月間だ。
日本人女性の乳がんは30代後半から増え始め、40~50代の前半に発症のピークがある。
国は原則、40歳から2年おきに問診とマンモグラフィー(乳房X線検査)単独法の受検を推奨しているが、近年は30代から乳がん検診を提供する自治体も増えてきた。
若い女性の乳房は乳腺の密度が濃く、マンモグラフィー検査単独では病変を見逃しやすい。このため、30代の女性には乳腺超音波検査も併用され始めている。
その一方で、検査画像から病変を読み取る「読影医」の不足と、検診施設の読影格差が問題視されるようになった。そこで注目されているのがAI(人工知能)を使った画像検査診断システムだ。
慶應義塾大学外科学教室の林田哲氏らは、ディープラーニングを使ったAIによる超音波検査診断システムを開発。「良性腫瘍で、がんの可能性はほとんどない病変」と「悪性腫瘍の疑い、要精密検査」という、僅差だが検診の次の行動を大きく左右する判別が可能かどうかを調べた。
学習後、同大病院などから提供されたおよそ3000枚の超音波検査の静止画を診断した結果、感度(真の陽性率)が91.2%、特異度(真の陰性率)90.7%という高い診断精度が確認された。
次に10人の外科専門医を含む30人の臨床医(経験年数5~8年)とで診断精度を比較した。
その結果、臨床医の平均値は感度67.1%、特異度81.4%であったのに対し、AIの成績は感度100%、特異度90.9%と有意に診断精度が高かったのである。
ちなみに、最も診断精度に優れていた臨床医の成績は、同84.2%、90.9%だった。
研究グループは今後、同AI診断システムの薬事承認を目指し、改良を加えていく計画だ。精度が担保されたAI診断システムの社会実装で、施設間格差の解消と、過剰診断による生検を含む不要な検査の軽減が期待される。
数年後の未来では、人間の読影医とAI診断システムのダブルチェックが「がん検診の標準」になっている。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)