私たちが今受けている医療はすべて、先人たちの発見や発明によってもたらされたものである。『すばらしい人体』では、自分たちの体が持つすばらしい機能を解説しながら、医学史を発展させた偉人たちの業績も紹介されている。そのなかには、医学者ではない他職種の人が偶然に医学上の大発見をしたケースもあり、驚かされるばかりだ。他業種の観点によって医学が発展することは、現代でもあるのだろうか。ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう@keiyou30)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者の山本健人氏に、他業種と医学とのコラボレーションについて聞いてみた。(取材・構成:真山知幸

【外科医が教える】アメリカ軍が開発した衝撃の「手術ロボット」とは?Photo: Adobe Stock

織物職人による大発見

――『すばらしい人体』は、医学史における大発見をした人物たちの業績も取り上げられています。私は偉人の研究をしているので、非常に興味深く読みました。とりわけ面白かったのが、オランダのレーウェンフックです。織物職人なのに、医学の大発見をしちゃったという……。

山本健人(以下、山本):織物職人のレーウェンフックは、布地の縫い目や織布の糸を確認するのに、拡大鏡をよく使っていましたからね。身近にあるレンズへの関心が、医学的な発見へとつながりました。17世紀後半のことです。

 あるとき、レーウェンフックが拡大鏡で水滴を観察していたら、目に見えない「微小動物」が無数にいることに気づきました。驚いて人体も拡大鏡で見てみたところ、肉眼では見られない血球や精子を観察することになります。

 さらに、レーウェンフックは、口の中にも微小動物がいることを初めて突き止めています。

――別に探していたわけでもないのに、発見しちゃったんですよね。

ただの偶然ではない

山本:レーウェンフックの何気ない観察が、生物学に大きな進歩をもたらしたのですから、面白いですよね。

 ただし、完全に偶然の産物とも言い切れないところもあります。レーウェンフックのレンズへの関心は並々ならぬもので、500個以上を自作していたそうです。

 そもそも、レーウェンフックが活躍した17世紀は、顕微鏡が世に生まれてまもない頃。肉眼で見えない生物が存在すること自体、知られていなかった時代です。

 レーウェンフックは、きっと自分の見た世界に衝撃を受けたはずです。

 こうした微生物が、実はワインやパンを作るのに役立っていたり、感染症の原因になったりするという事実が分かるのは、それからさらに200年近く後のことです。

 レーウェンフックは、まさに微生物学の基礎を作った人物なんですね。一介の織物商人が、将来「微生物学の父」として歴史に名を残すなど、本人ですら想像しなかったでしょう。

アメリカ軍が開発

――残した業績は意図したものではなかったにしろ、やはり一つのことに執着した結果、偉業に辿り着いたわけですね。いかにも偉人らしいなあ。レーウェンフックのように、他業種の人が医学的な研究とコラボレーションをするようなことは、今でもありますか。

【外科医が教える】アメリカ軍が開発した衝撃の「手術ロボット」とは?山本健人(やまもと・たけひと)
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワーもうすぐ10万人。著書に16万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)など。

山本:いまや外科の領域で広く普及しつつある手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)」は、いい例だと思います。

 ダビンチはもともと、アメリカ軍が本土や空母から遠隔で兵士のケガを治療するために開発されたものです。それが今や日常診療で保険を用いて、ロボットが活用されるようになりました。

 ロボットのような医療機器は、医学の専門家だけでは作れません。エンジニアや機械メーカーとコラボする必要があります。

 大学などの教育機関・研究機関と民間企業が連携することを「産学連携」といいますが、医学の現場でもますます進んでいくことでしょう。

 産学連携が必要なのは「AIによる診断」といった医療行為に直結する技術だけではありません。例えばVRの技術は、がんの終末期で外出が難しい患者さんが海外旅行を体験したり、医師が手術をバーチャルでトレーニングしたり、などの応用ができます。

 あらゆる分野が医学と連携する可能性を持っています。

外科医と医療機器

――まさに将来的に医学史に刻まれるかもしれない研究が、日夜行われていると思うとワクワクします。『すばらしい人体』では第3章が「大発見の医学史」と題打たれています。本書は5章構成ですが、各章のバランスがとてもよいですね。

山本:読者のみなさんからも、そういう声が寄せられていてうれしいです。面白いのが、読者によって好きな章がバラバラなんですよ。「第1章 人体はよくできている」で、体の優秀な機能を知って感銘を受けたという声もあれば、「第2章 人はなぜ病気になるのか?」や「第4章 あなたの知らない健康の常識」が勉強になったという声も寄せられています。

――ちなみに先生が一番好きな章はどれですか。

山本:私は医療機器が好きなんですよ。なので、「第5章 教養としての現代医療」の原稿は特に楽しみながら書きましたね。

 ただ、こうして書き上げた今は、どの章にも愛着を感じます。どのページからでも読めるように、構成や書き方を工夫しました。

 興味のある箇所から、ぜひお楽しみいただければと思います。