2023年2月4日付の日本経済新聞「リーダーの本棚」にご登場した藤野英人氏が、座右の書として、『ピーター・リンチの株の法則 90秒で説明できない会社には手を出すな』を紹介、話題になった。本作は、処女作『ピーター・リンチの株で勝つ[新版]』に続く第二弾! 読者がもっとも興味のあった「ピーター・リンチがどのようにして、資産を増やしていったのか」という疑問に答える中身になっています! 新訳版として、さらに読みやすくなり、黄金律は5つ追加され、25の黄金律として収録。本書より、ピーター・リンチの投資戦略が垣間見られるエピソードを全5回にわたって紹介。
新刊『ピーター・リンチの株の法則 90秒で説明できない会社には手を出すな』の連載第5回。(初出:2015年4月27日)

銘柄選択の成功は信念を貫けるか否かにかかっている

 私が言う信念とはいったいどんな信念なのだろうか。分かりやすく言うならそれは、米国はずっと存続するというような信念である。人類は今後も朝、目が覚めたらズボンに足を1本ずつ入れていくし、そのズボンを作る会社は株主のために利益を稼ぐというような信念である。

 古参の企業が勢いを失って消えて行くにつれ、ウォルマートやフェデラルエクスプレス、アップルコンピュータのように人をわくわくさせる新しい企業が台頭してくるというような信念である。そして、米国は勤勉で創意工夫をする人々の国であり、有名校を出て高い給料をもらっているヤッピーの人たちであっても怠けていればこっぴどく叱られる国だというような信念である。

 私は、その時々の大局に疑問を抱いたり失望したりしたときには、「もっと大きな大局」に必ず目を向けるように心がけている。自分は株式投資で信念を貫けると思っている読者なら、このもっと大きな大局を知っておいて損はない。

 もっと大きな大局とは、株が過去70年間に年率で平均11%のリターンをもたらしてきたことであり、その一方で短期・長期の米国債やCD(預金証書)などのリターンはその半分にも満たなかったことである。

 20世紀には大小の災難が起こった(そして世界が終わるかもしれないという不安が広がった)にもかかわらず、株は債券の2倍も報われる投資対象であり続けているのだ。この点だけを心にとめて投資するほうが、景気後退の到来を予測している評論家や投資アドバイザー200人の意見に基づいて投資するよりも、長期的にははるかに大きな利益を得られるだろう。

 また、株がほかの投資対象を上回るリターンをあげた過去70年間には、株価が10%以上下落する恐ろしい局面が40回もあった。この40回のうち、13回は下落率が33%に達していた。1929年から33年にかけての急落もそのひとつだった。

 何千万人もの人々が株を避けて債券やマネー・マーケット商品を好み続けている理由はいくつかあるだろうが、何より大きく作用しているのは1929年の大暴落の文化的記憶だと私は確信している。あの暴落は、60年が過ぎた今でも、当時生まれてすらいなかった私の世代も含む多くの国民を株から遠ざけている。

 もし私たちがこの暴落のトラウマに苦しんでいるのだとしたら、それによる不利益は非常に大きい。次の暴落を避けるためにお金を債券、マネー・マーケット商品、普通預金口座、CDなどで運用している人は、この60年間の株価上昇の恩恵にあずかれず、インフレによる資産の目減りにも見舞われているからだ。実際、インフレによる目減りは、株価暴落が生じたときにもたらされるダメージよりも大きなものになっている。

 あの有名な大暴落の後に大恐慌がやって来たせいで、私たちは株式市場の暴落と景気の急激な悪化を結びつけて考えるようになっている。株価が暴落すれば景気も大幅に悪化すると信じ込んでしまっている。あまり報じられなかったが、1929年に匹敵するほど深刻だった72年の暴落(このときは、タコベルのような素晴らしい会社の株価が15ドルから1ドルに下がった)のときに景気が大きく悪化しなかったにもかかわらず、87年のブラック・マンデーのときもそうだったにもかかわらず、この見当違いな見方は人々の心にこびりついてしまっている。

 おそらく、大暴落はいずれまたやって来るだろう。だが、私にはそういう予言をする手立てがない(「バロンズ」の座談会に参加するベテランたちも同様だ)。だから、自分の身をあらかじめ守ろうとすることにどんな意味があるのか、さっぱり分からない。もし私が自分の身を守ろうとしていたら、おそらく現代に入って40回あった下落のうち39回で株を売り切ってしまい、後で悔しがったことだろう。何しろ1929年の大暴落の後でさえ、株価は最終的には立ち直ったのだから。

 株の下落は特に驚くことではない。繰り返し起こることであり、ミネソタの寒気と同じくらい普通にあることだ。寒い地方に住む人は、いずれ凍り付くような季節がやって来ることを知っている。だから、外の気温が氷点下になっても、次の氷河期が始まったとは考えない。防寒着を着て、道路に塩をまき、夏にはまた暖かくなると思うだけだ。

 ミネソタ州民と寒気との関係は、株の銘柄選択で成功している投資家と株式市場の下落のそれと同じである。やって来ることは分かっている。乗り切る用意もできている。ほかの株といっしょにお気に入りの銘柄が値下がりしたら、すかさず買い注文を入れるのだ。

 ダウ平均が一日で508ポイントも下落した1929年の大暴落の後、専門家たちは最悪の事態になると口をそろえた。しかし、ダウ平均は結局1000ポイント下げたものの(8月の高値から33%下落)、多くの人が予想した「世界が終わる日」はやってこなかった。あの暴落はたしかに大幅だったが、普通の調整であり、20世紀に13回あった33%の下落の13回目にすぎなかった。

 下落率が10%を超える次の下落(本書が世に出るころにはもう発生しているかもしれない)は、現代史上41回目の下落になるだろう。33%を超えれば、14回目の大暴落だ。私はマゼラン・ファンドの年次報告書でも、そういう下落は避けられないとたびたび指摘していた。

 市場が悲観的になっているときでも、過去には40回もの大幅下落があったという事実を思い出すと私は元気になる。優良企業の株のバーゲンセールがまた始まっていることになるからだ。


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新訳『ピーター・リンチの株の法則』翻訳者の平野誠一氏に聞く(1)
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