人脈を築くための
「五つのステップ」とは

 信頼関係を築き継続する方法として、各国の諜報活動にも共通するのが、以下の五つのステップである。

(1)選定=対象者を選ぶ
(2)基調=相手を知る
(3)接近=相手に近づく
(4)獲得=相手と信頼関係を構築する
(5)運営=相手を分析・評価しながら関係を続ける

(1)~(5)の各ステップで行うことは次の通りだ。

(1)選定では、人脈を構築したい相手方を選ぶ。ただし、相手方に直接アプローチをするのではなく、紹介者を通じて近づく。なぜなら、紹介であれば相手方の警戒心は弱まるからだ。

(2)基調では、OSINTを駆使して相手方の基本情報(職業、趣味など)を得るだけでなく、相手方の悩みや望みなど、複数の要素を見定める。

 例えば、経営者であれば、悩みは基本的には「会社の安定」である。これは、財団法人防衛調達基盤整備協会(2012年4月に一般財団法人防衛基盤整備協会に改称)の調査研究からの引用(※1)だが、「小さな会社の経営者は、たとえいかに成功していたとしても、常に大きなリスクを背負っているし、常に彼の立場を強化しようとしているものです」と論じている。

 スパイは基調の段階から、ある程度相手方の悩みを把握しているのだ。この基調では、特に相手方の「弱み=悩み」に着目する。その理由は(5)の獲得のフェーズで説明する。

※1 平成22年3月 財団法人防衛調達基盤整備協会「カウンターインテリジェンスの最前線に位置する防衛関連企業の対策について(平成21年度)」

(3)接近では、偶然の出会いを演出して相手方に出会う。

 実際に日本で行われたハニートラップの例だが、某議員の目の前で美女がハンカチを落とし、某議員が拾った。この時、某議員には「きれいな人だな」くらいの印象しかなかっただろう。

 しかし、ハニートラップを仕掛ける美女は前述の(2)の基調の段階で、某議員の行きつけのバーを把握しており、そのバーで偶然の再会を装うのだ。

 美女から接近された某議員は、「あの時の……」とすっかり警戒心を弱め、後に男女の関係に進展し、美女を操る国家に対する便宜を図ってしまったのだ。

(4)獲得では、相手に先行して信頼を与え、安心させる。相手に対して決して見返りを求めず、相手方に「あなたを信頼している」と見せるために、一定の重要な情報を共有したり、悩みをこちらから先に打ち明けるのだ。

 そして、会話や会食の中で、(2)の基調で見立てた弱み(=悩み)を確認し、手を差し伸べて寄り添う。この際、悩みに寄り添い、誠実に向き合うだけで、相手はあなたを信頼する。

 例えば、あなたの家族の健康が芳しくなく、入院を控えていた場合、私なら入院前・入院中・退院時のそれぞれで手紙や入院中に役立つグッズ、退院時にささやかなプレゼントを贈るだろう。

 受け取ったあなたは、「入院の件を覚えていてくれた、私の大事な家族を同じように大切に考えてくれている」とわずかにでも私に信頼を寄せるだろう。これを積み重ねるのである。

(5)最後に、相手との関係のメリット・デメリット、状況の変化などを分析・評価しながら関係を維持していく。これが最後のステップ「運営」である。

 それでは、以降では(4)の獲得時に使用する具体的な手法を解説する。