根回しして勝ち取ったB-29
ワシントンから戦地の指揮

 アーノルドと共に関係各所に根回しをしていたハンセルは、海軍の翻意が決め手だったと明かしている。

「陸軍と海軍の承認が必要だったが、どちらもこのようなことには肯定的ではなかった。だが、最終的には、最も予期していなかったところからの支持を得た。それは海軍トップのアーネスト・キング提督からの支持だった。私たちはキング提督に『我々のコンセプトは、海軍の作戦のコンセプトと非常に類似しています。我々なら、もし別のアイデアを持つ陸軍の指揮官に邪魔されそうになっても、作戦を分けておくことができます。我々はB-29は統合された戦略指令の下にあるべきだと考えています。そう、あなたが指揮している海軍の艦隊のように。我々は、アーノルド将軍を同じような地位に就けたいのです。そうすることができれば、いざという時に海軍をサポートすることもできるでしょう』と伝えた。するとキング提督は『それは非常に意義深いことだと思う』と返答してくれた。海軍の後ろ盾を得られて、アーノルド将軍は非常にうれしそうだった」(肉声テープより)

 ハンセルは、戦果を競い合う陸軍を引き合いに出しながら、海軍にとってもメリットがあることを強調することで、海軍トップのキング提督を説得した。そして最終的に、航空軍が独自の空爆作戦だけでなく、陸・海軍の攻撃のサポートもすることを条件にアーノルドは指揮権を手にしたのだった。30億ドルという巨額の開発費をかけたB-29運用の全責任を負うことになった。ルメイは、B-29の指揮権を握った功績は計り知れないほど大きいと手放しで賞賛していた。

「それは、アーノルドが成し遂げた素晴らしい成果だった。なぜなら、のちに自分自身も統合参謀本部とのやりとりを経験してみてわかったことだが、アーノルドがそのときにどれだけ難しい交渉をしていたのか、理解することができたからだ。当時は、陸軍も海軍も誰もがB-29の指揮権を欲しがっていたが、それを手に入れたあとにどう扱っていいのかが全くもってわかっていなかった。統合参謀本部の中でやりあい、B-29の指揮権を手に入れられたのは、最大の成果だった。アーノルドは、奇跡を起こしたのだ。文字通り、奇跡である」(肉声テープより)

 アーノルドは、B-29のみを装備した第20航空軍を新たに立ち上げ、自らが司令官に就任する。それは、ワシントンにいながら戦地の指揮を執るという前例のない措置だった。