A社のプロフィールは次のようなものとなる。業種はサービス業、年間売上高は20億円弱、従業員数は約200人の中堅企業だ。小売業やサービス業のように人件費にコストがかかる業種は、同時に社会保険料金(以下・社保)の負担も大きくなる。

 社保には次のような種類がある。

「健康保険・介護保険」「厚生年金保険」「雇用保険・労災保険」の主に三つである。事業者はこれらを納付することが義務付けられているのである。社保の中でも最もコスト負担が大きいのが「厚生年金保険」といわれている。人件費のうちのおよそ2割が厚生年金保険料といわれており、社保の中でも最も比重が大きいコストとなっている。

 A社の命運を一変させたのが2020年2月ごろから感染拡大した新型コロナウイルスだった。サービス業、小売業、アパレル業などの業種は労働集約型産業である。労働集約型産業はコロナの影響をまともに受けたところが多く、業績はより一層苦しくなった事業者が多い。A社も20年4月に政府より発令された緊急事態宣言により店舗休業を余儀なくされ、一気に資金繰りが苦しくなったのだ。

 前述のように人件費比率が高いということは社保負担も大きいということを意味する。経営難に陥ったA社は20年5月末より社保の支払い繰延を年金事務所に申請し、「換価の猶予」を受けることになった。

厚生年金保険料の納付猶予
申請に必要な5条件とは

 日本年金機構によると「換価の猶予」とは、厚生年金保険料等の納付が一時的に困難となった場合に、申請要件の全てに該当するとき認められる制度のことを指す。その申請要件とは次の五つとなる。

(1)厚生年金保険料等を一時的に納付することにより、事業の継続等を困難にするおそれがあると認められること
(2)厚生年金保険料等の納付について誠実な意思を有すると認められること
(3)納付すべき厚生年金保険料等の納期限から6カ月以内に申請されていること
(4)換価の猶予を受けようとする厚生年金保険料等より以前の滞納または延滞金がないこと
(5)原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保提供があること