A社が換価の猶予を受けられた期間は2年。換価の猶予を受けていた期間に積み上がった社保の支払繰延残高(滞納金)は約3億円にも上ることになった。
「当社は、キャッシュフローは出ていて収益は徐々に上がっていたのですが、過去の赤字でバランスシートが傷んでいた。換価の猶予期間が終わっても、財務的には余裕がなかったのが実情でした」(X氏)
22年から社会保険料納付を再開することになったA社。そんなA社に対して年金事務所側は滞納金の厳しい取り立てを始める。昨年秋頃から今年にかけて、「早期の支払い繰延解消をしてください」と繰り返しプレッシャーをかけてきたのだ。
年金事務所が突き付けた
「非情な通告」の内容
年金事務所側の条件は次のようなものであった。
「基本的には1年での解消。最長でも2年で完済してください」
これは非情な通告だった。
A社の財務状況的には2年間滞納してきた3億円を、マックス2年の間に完済せよ、という督促は厳しすぎる。毎月の社保を支払いながら、滞納分の返済も行うことになるので、実際には社保料金の2倍強に相当する金額を毎月負担しなければならないことを意味していたからだ。A社の資金繰りはますます厳しくなり、目の前に「社保倒産」という言葉がちらつくほどの苦境に陥ることになったのだ。
改めて倒産の定義について振り返ると、「倒産」とは企業が債務の返済不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になったりする状態のことを指す。社保倒産とは、年金事務所などにより資産の差し押さえを受け、資金がショートして倒産に追い込まれることを指す。社保倒産の厳しいところは、企業の存続の道すら断たれてしまうことが多いところにある。
倒産問題に詳しい森・濱田松本法律事務所の藤原総一郎弁護士が語る。
「社保滞納の難しいところは私的整理を実行することが難しいところにあります。そのときには事業者は法的整理、つまり倒産となる。いざというときに最も厳しいのが社保で、国税、自治体よりも取り立ては激しく厳しいと私は捉えています」
法的倒産には再建型の「会社更生法」と「民事再生法」、そして清算型の「破産」と「特別清算」の四つに分類される。年金事務所は滞納分が回収できないと判断すると、差し押さえ、換価手続きに入る。税金や社保のような公租公課の場合は「優先債務」と呼ばれ、真っ先に差し押さえが実行される。差し押さえによりキャッシュフローを止められてしまえば、企業はお手上げだ。