書影『2035年の世界地図』『2035年の世界地図』(朝日新聞出版)
エマニュエル・トッド 著/マルクス・ガブリエル 著/ジャック・アタリ 著/ブランコ・ミラノビッチ 著/東 浩紀 著/市原 麻衣子 著/小川 さやか 著/與那覇 潤 著

 第三次産業にふさわしい教育を受けた労働者を製造現場の労働者階級に変えることはできますか? われわれには分かりません。いや実は残念ながら知っています。これが不可能であるということを。

 この点で、米国の状況は興味をそそります。彼らは生産していないからです。

 もちろん教育システムがあり、彼らはあらゆる種類の学位を持っています。しかし彼らは、十分なエンジニアを生み出していません。もはや数学者も十分には生み出しておらず、中国から「輸入」しなければなりません。

 最大のジョークですよね? 米国のエンジニアの半数が「輸入」、そしてその大きな部分は中国から「輸入」されています。

 米中間の相互依存があります。グローバル化は今も続いており、抜け出すのは非常に困難です。そして、グローバル化にはある要素があります。グローバル化を抽象的なものとして見ることはできません。国家に、そして強大な国家に関係なく存在するものとは見ることができません。

最初のグローバル化は英国が
第二のグローバル化は米国が担った

 最初のグローバル化は、1914年の第一次世界大戦の前でした。それは英国によるものでした。英国は、産業と金融で非常に進んでおり、強力な海軍を持っていました。

 英国は最初のグローバル化のリーダーであり、主要なアクターでした。

 第二のグローバル化は、まさに米国の力によるものでした。米国の力は現在、弱体化はしたものの、依然として存在します。

 ですから、グローバル化から抜け出すということは、先進国、特に米国が労働者階級、つまり工業を担う階級を復活させることを意味します。

 問題は、米国の人々にとっては生産の現場で働くより、強力な軍隊を持ち、基軸通貨であるドルを印刷するほうがよっぽど簡単だということです。

 繰り返しますが、私は楽観的ではありません。

 これが今、われわれが世界規模で直面する大きな戦いの背後にあることだと思います。米国にとって、グローバル化から抜け出すことは簡単ではありません。

エマニュエル・トッド
歴史家、文化人類学者、人口学者。
1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新聞出版)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。