社長に訴えるも、退職届の撤回はかなわず……

 次の日、Aは改めてD社長に退職届の撤回を求めたが、D社長は撤回を拒否できる理由を説明し、退職承諾書をAに渡した。D社長の毅然とした態度にAは言葉を失い、撤回は無理だと悟った。

 自席に戻ったAは、簡単にBの話に乗ってしまった自分の情けなさに涙を流した。するとCチーフがAのもとに駆け寄り、耳打ちした。

「まだ社長には話していないけど、ある中堅社員から4月末で退職したいって相談を受けているんだ。こっちとしては引き止めているけど、辞める意思は固そうだから、無理だと思う」
「それって、自分と関係があるんですか?」
「あるさ。彼が退職したら1人欠員が出るから、引き続きここで働けるかもしれないよ。だから、社長の印象を良くするためにも、退職日までしっかりやってほしい」

 Aは泣くのをやめ、すぐに引き継ぎ書類の作成に取り掛かった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。