対韓輸出規制の緩和などと
パッケージでの解決を検討

 日韓の報道を総合すると、この他の解決案の大枠は次の通り。

 韓国政府による解決策が発表された後、日本側は岸田文雄首相が1995年の村山談話と1998年の小渕・金大中(キム・デジュン)宣言を継承するという立場を発表する。小渕・金大中宣言で、小渕恵三首相(当時)は「痛切な反省と心からのおわび」を表明していた。岸田首相は、6日国会で、過去の談話を継承すると述べた。

 韓国政府は、徴用工に関連する日本企業に寄付を求めていたが、日本側は「1965年の日韓請求権協定ですべての問題は解決した」という立場を変えなかった。

 このため日本企業は弁済ではなく、「未来志向的な事業」に資金を拠出する方式を取ることになり、両国を代表する経済団体の経団連と全国経済人連合会(全経連)を通じて留学生に向けた奨学金など両国の青年世代を支援する事業を推進するため「未来青年基金(仮称)」を設立することになった。日本製鉄や三菱重工も経団連の会費や寄与金を支払う形で基金に参加する。

 支援財団は、徴用工の解決策発表を契機に、過去の歴史問題を包括的に解決できる特別法制定に向けた取り組みを推進する予定だ。

 共同通信は、日韓両政府が、元徴用工訴訟の原告への賠償問題と合わせ、日本の対韓輸出規制の緩和や首脳の相互往来再開などを「パッケージ」とする方向で検討していることがわかったと報じている。

 岸田首相は、輸出規制問題は別物だと国会で述べたとしているが、もともとそれが建前であり、報道によれば、日本側は韓国政府がWTOへの提訴を取り下げれば、規制の緩和に応じる意向だといわれる。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領への負担軽減のためにも、韓国側にメリットとなる要素は必要であろう。

 一方、最大野党の「共に民主党(民主党)」は、韓国政府による解決案の予告に強く反発した。民主党の朴省俊(パク・ソンジュン)報道官は、会見で「解決案を受け入れることはできない」「これは日本の過去史の責任を覆い隠して免じてやる合意」と批判した。

 韓国政府は、「日本政府も誠意ある呼応をするように」と求め、日本側と協議を重ねてきた。

 しかし、その協議を通じて日本政府から「当該企業は元徴用工に補償するため支援財団に寄付することには応じられない」との結論を出したことが、韓国側に伝えられた。

 こうした日本の対応に対し、韓国政府とその周辺では「急ぐ必要はない」とする現実論も浮上していたが、尹錫悦大統領はそれでも韓国政府が支援財団を通じて解決するとの決断を下した。

 本稿では、このような決定に至った韓国政府の決断の背景、韓国国内の受け止めについて、筆者の分析を紹介する。

 また、これまで日本は慰安婦問題の解決を巡って再三、韓国政府の「ちゃぶ台返し」にあっており、今回も同様なことが起きるのではないかとの危惧が日本国内にある。この点についても検討する。