徴用工問題の解決を
大統領が急いだ理由

 日本側の対応は、支援財団への日本の企業の寄付ではなく、前述の通り、「未来青年基金」への拠出という形に落ち着いた。日本側は徴用工問題について「1965年の日韓請求権協定で解決済み」という固い姿勢のため、日本側が譲歩することは期待できない。このまま交渉を続けても成果がなければ、韓国国内で「交渉を打ち切れ」という声が高まったであろう。

 韓国国内の関心は、歴史問題から北朝鮮の核・ミサイル開発にいかに対応するかに比重が移っている。そのため、5月のG7の場で日米韓3カ国が連携を強化することの意味合いは大きく、日韓の懸案はそれ以前に解決しておく必要がある。その点は、国民世論も反対できないだろう。したがって、日韓の懸案は現時点で解決しておく必要があった。

 もし現時点で解決できなければ、尹錫悦政権の5年間で解決できない可能性すらある。

 尹錫悦大統領としては、元徴用工問題を解決して日韓関係を改善するか、断念するかの選択に迫られたということである。

3・1独立運動記念日演説への
国民の反応が解決案発表を後押しか

 今年の3・1独立運動記念日の演説は、徴用工問題で大胆な決断を行うことの是非を判断するとともに、国民に対して世界史の流れを正確に読み、未来を準備することの重要性を訴える機会であった。

 尹錫悦大統領は、その演説で、日韓関係に関し、徴用問題、慰安婦問題などの具体的な懸案には触れず、日本とのパートナーシップを前面に出した。

 尹錫悦大統領は「三一運動から1世紀が過ぎた今、日本は過去の軍国主義侵略者から、われわれと普遍的価値を共有して安保と経済、そしてグローバルアジェンダで協力するパートナーになった」とし「特に複合危機と深刻な北の核の脅威など安保危機を克服するための韓日米3カ国協力が、いつよりも重要になった」と強調した。これは歴代大統領の演説とは全く異なる趣のものである。

 これに対し、左派系新聞は、市民団体の反発や独立運動記念日の演説としては不適切だとする市民の声を紹介、野党民主党の批判も伝えたが、全体としては比較的冷静な反応であった。この反応が6日の解決案を後押ししたのではないか。