全社的に品質不正に見舞われている東レだが、業績という定量的な観点からも、厳しい結果が続いている。韓国や香港でのM&A(企業の合併・買収)では巨額の損失を出し、中期経営計画と実績が大幅に乖離していながら、その原因についての分析はない。機関投資家の離反は必至とみられ、12年間続く日覺昭廣社長の「公益資本主義体制」は終焉を迎えそうだ。特集『東レの背信 LEVEL3』(全5回)の#3で、その真相に迫る。(フリーライター 村上 力)
日覺社長の「強い心」が全く響かず
業績目標未達を繰り返す東レの根本問題
「2017年に品質データ書き換えが発覚して以降、東レグループではMission BEAR活動や品質保証コンプライアンス活動を進めてコンプライアンス意識の向上に努めてきたにもかかわらず、間違いを正しい道に戻す『強い心』が発揮されずに本問題が特定の組織の中にとどまり続けて明るみに出なかったという事実を、私は極めて重く受け止めています」
昨年1月、東レが難燃性の安全認証であるアンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)の不正を公表した際、日覺昭廣社長は社内向けにこんなメッセージを発している。
ULの不正は有識者調査委員会の調査により、樹脂ケミカル事業部に限った不正であるとの結論が下された。ところがその後、ダイヤモンド編集部の取材で建材や繊維強化プラスチック(FRP)高欄でも品質不正が判明し、問題が「特定の組織」にとどまらないことが明らかになった。この事実は、日覺社長の「強い心」が、東レ社員に全く響いていないことを示す。
品質管理といったマネジメント面でリーダーシップを発揮できていない日覺社長が、強いこだわりを持つのが東レの業績向上だ。日覺社長は15年のダイヤモンド編集部のインタビューで、21年3月期までに東レの売り上げを3兆円にすると豪語していた。
実際、日覺社長就任直後の11年2月、東レは長期経営ビジョン「AP-Growth TORAY 2020」を策定し、21年3月期に売り上げ3兆円、営業利益3000億円とする目標を打ち出した。同時に公表された中期経営計画「AP-G 2013」は、14年3月期に売り上げ1.8兆円、営業利益1500億円とする目標を設定。14年3月期は売上高1.8兆円、営業利益は1052億円と、売り上げ目標を達成した。強気の発言は、売り上げの好調を追い風にしたものと思われる。
しかしこれ以降、東レの業績は経営計画と乖離していく。
次の3カ年の経営計画「AP-G 2016」では、17年3月期を売り上げ2.3兆円、営業利益1800億円と予想。だが実績は売り上げ2兆円、営業利益は1468億円と未達に終わる。さらに次の「AP-G 2019」では、20年3月期を売り上げ2.7兆円、営業利益2500億円と設定したが、実績は売り上げ2.1兆円、営業利益は1147億円と及ばなかった。
長期計画で3兆円を目指していた21年3月期はむしろ減収で、売り上げは1.8兆円、営業利益は10年間で最低の558億円となった。3年ごとに公表されてきた東レの経営計画を見ても、なぜ未達かは分析されていない。
今期の業績も厳しい。売り上げ2.6兆円、事業利益1400億円と予想していたが、第2四半期に利益予想を1300億円、第3四半期に同1000億円と、少しずつ下方修正している。
ガバナンス論に詳しい八田進二・青山学院大学名誉教授は「中長期の経営計画や業績予想は、想定外の事象や経営環境の変化など、不可抗力により達成できないことがある。しかし重要なのは、その原因について分析と説明をできるかだ。適切な振り返りなく未達を繰り返しているようでは、経営の検証機能が不全となっているといえる」と指摘する。
品質不正を繰り返す東レは、経営面の検証も機能不全に陥っている可能性が高い。その理由を次ページから解明する。