東レの背信 LEVEL3#2Photo by Takeshi Shigeishi

欠陥が見つかった東レ製の鉄道用高欄は、国が推し進める「開かずの踏切」対策で全国各地に設置された。鉄道高架化工事は財源の9割を国と自治体が負担しており、事実上、国民が東レの欠陥製品をつかまされた形だ。さらにダイヤモンド編集部が現地入りして取材を進めると、必ずしも住民が高架化を歓迎しているわけではないという、根本的な矛盾も浮き彫りになってきた。特集『東レの背信 LEVEL3』(全5回)の#2は、鹿児島と大阪の現場からリポートする。(フリーライター 村上 力、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

ラ・サール高校出身の青柳JR九州会長が
母校に錦を飾ったはずの高架事業に異変

 東レ製の繊維強化プラスチック(FRP)高欄の欠陥が発覚した九州旅客鉄道(JR九州)指宿枕崎線谷山駅は、国の「開かずの踏切」対策において記念すべき場所だ。

 鉄道を高架化あるいは地下化する連続立体交差事業は、1969年の事業開始から実施主体は都道府県と政令指定都市に限定されていたが、国土交通省は2004年、人口20万人以上の中核市も実施主体に追加した。

 これを受け、最初に手を挙げたのが鹿児島市だった。05年に谷山駅周辺の高架化計画が国交省に採択され、08年に市とJR九州が基本協定を締結。16年3月に高架開業を果たした。

 日本の鉄道史に残るこの立体交差事業の実現に尽力したのが、JR九州会長の青柳俊彦氏である。

 青柳氏は、谷山駅が最寄りのラ・サール高校を卒業し、東京大学に進学。立体交差化計画が浮上した04年から05年まで、JR九州の鹿児島支社長を務めた。記念式典では、鹿児島市長と共に満面の笑みでくす玉を割っている。

 連続立体交差事業は、開かずの踏切を減らすことにより交通渋滞や事故の危険性を解消し、路線により分断された市街地の一体化を促すことが目的である。

 だが、現地で取材を進めると、必ずしも全ての住民が谷山駅の高架化を歓迎しているわけではないことが分かった。

「指宿枕崎線は1時間に3本しか列車が走らない。そもそも、開かずの踏切というほどの問題はない。もしお金をかけるなら、列車を電化してほしい。指宿枕崎線はいまだに2両編成のディーゼル車で、車両が古く揺れがひどいからね」。近隣住民の男性はそう声を潜める。

 高架開業当初は、谷山駅周辺に商業施設の建設が計画されるなど、谷山が鹿児島中央駅に次ぐ副都心になるとうたわれた。だが直近の谷山駅の利用者数は、高架化直後の約2600人/日から増えておらず、駅前は閑散としている。盛り上がりはいまひとつのようだ。

 谷山駅の高架化計画では、開かずの踏切対策以外の意義として「高架下の地域利用」が強調された。高架下を遊歩道や駐輪場として整備し、住民に利用してもらうというものだ。開業時には、近隣住民を招いて高架路線を歩く「レールウオーク」が催され、地域密着を印象付けた。

 しかし、そこに降って湧いたのが東レの欠陥製品である。21年5月、高欄の一部が剥落したのだ。

 そして同時に、国民の血税を使った事実上の公共事業でありながら、住民に危険を及ぼしかねない情報の開示に、あまりに消極的な東レと鉄道会社の姿が明らかになった。次ページからその詳細を明らかにしていく。