一つは人心掌握力であり、一つは勝負師として運の良いことである。
森保監督の人心掌握力は大変高いものがあるのだろう。これについては、たくさんの人が手放しに褒める。しかし、それは、そもそも今回の代表選手たちは、それぞれのヨーロッパのクラブチームにおいて、ほぼ全員が絶対的な立場を確保しておらず、出場するためには監督の意向に沿ったプレーを甘受しなければならない段階であったことが関係している。今回のW杯はその延長戦上で、たとえ示された戦術があまり納得できないものであったとしても、それを黙って受け入れるほかなかったであろう。
その後、日本の代表選手たちは各クラブで大活躍をしている。次回の選手のレベルは、今回より格段に上がっていることは確実である。より高いレベルのチームに属し、より高いレベルの戦術を当たり前のものとし、より高いレベルのサッカーを普通にプレーする集団になっている。その結果、個々の選手の自己主張もより強いものになっていくことだろう。そのとき、細やかな心配りができるだけでは、ただの“いい人”でしかなく、ピッチ上の選手たちを制御できなくなる可能性が高い。
勝負師としての運の良さも重要である。やはり最後は神通力である。なぜだかこの人がトップだとうまく行くということは実際にあるように思われる。人の運を重視した松下幸之助しかり、無名にもかかわらず、戊辰戦争で撃った弾は百発百中、受けた砲弾がゼロという、「運の良い男」だからという理由で海軍首脳山本権兵衛に大抜擢され、日露戦争の連合艦隊司令長官に任命されて実績を上げた東郷平八郎しかり、運の良さを人の選定基準にするのは、非合理のように見えて、合理的なのであろう。
その勝負運で言うと、森保監督は悪くはないが良くもない。ドイツ戦もスペイン戦も奇襲に成功して勝負師のようにも見えたが、結果だけ見ると、東京オリンピックのメダルマッチ(準決勝、3位決定戦)に敗れ、ワールドカップは目標のベスト8マッチにPK戦で敗れた。Jリーグ・サンフレッチェ広島の監督時代、総当たりリーグ戦は6期中3期優勝する好成績だが、一発勝負のカップ戦(天皇杯、ナビスコ杯)では成績は概して悪く、優勝は一度もできなかった。