あらゆる準備をしない者は世界で勝てない
以上を総合すれば、森保監督を留任させる決断は理解に苦しむ。もちろん、報酬の問題や適切な代替者の問題など、さまざまな制約があるなかで人事は行われるのだろうが、4年間も代表監督をしながら、コンティンジェンシープランを準備しない指揮官を留任させる決定の根拠はいかなるものか。コンティンジェンシープランの欠如は、勝負どころの大事な試合を落としがちな過去の戦績とも密接な関係があるだろう。
それにもかかわらず、さしたる議論もなく、代替可能性のある者の発掘およびシビアな比較検討もなく再任されるということは、われわれには知りようもない、報道されてもいない、なにか素晴らしい点があり、コンティンジェンシープランの欠如など、ささいなことに思えるほどの人間力があるということなのだろう。それほどまでに、魔訶(まか)不思議な人事だと私には思えるのである。
そしてもっとも重要なのは、これはなにもサッカー監督に限ったことではないということである。組織の人事においても、リスク要因が山ほどあるなかで、リスク感度の低い人、失敗から学んで成長できない人を、明らかな失点があるにもかかわらず、「人当たりのよさ」「たまたま結果が出ていた」などといった理由だけでトップにつけてはいけないし、ガバナンス的にも、当初約束した目標を達成できなかった人をなんとなく留任させてはいけない。
人の話をよく聞く人はいい、それはもちろんそうだろう。ただし、世界が戦場であるような、トップレベルの人材がそろう組織では、成果を出すために、実行可能なあらゆる準備をしない人は、リーダーになるどころか、本来ならば候補者にすらなれないはずだ。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)